第13話

気長に
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2021/11/06 07:27

あの後、もう日が落ち始めていた為、皆で館に戻った。
館に入る前に、軽く身体をはたいて中に入る。
早速話しあってもいいのだが、能力を使うと体力が減るのだ。
まずはお腹いっぱいご飯を食べて、ゆっくり休んでから話しをする。
焦っていても、いい案は浮かばないものだ。

「みんなー。今からご飯作るからちょっと待っててー。」

そう4人がいる方へ声をかけると、まばらに返事が返ってきた。
その事に一安心しつつ、マフラーと羽織を脱いで椅子の背もたれにかける。
いくらか動きやすい格好になったところで、冷蔵庫に近づいた。
そのまま冷蔵庫を開いて、中身を確認する。
正直料理は得意じゃない。ポトフだって、昔__さんに教えて貰ったから作れるだけであって…。

…?__さんって誰だ?まぁいいや。

冷蔵庫の中には、ポトフの材料の残りと牛肉、カレー粉があった。ついで米もあったので今日はカレーに決定した。
ちゃっちゃと米を洗ってセットする。次に野菜を切る作業に入るのだが、前は上手くできたのに何故か上手くできず、指を何度も切った。
適当に絆創膏を貼ってカレー作りを続行する。
結局出来上がったのは、少し不格好な野菜の入ったカレーだった。艶々の米の上にルーをかける。
5人分つぎ終わっても、少し余ったのでおかわりも有りだ。
匂いに釣られてきたのか、キッチンの入口には、4人が押し合いをしながらこちらを覗いていた。
みんなに声をかけて、テーブルの上を拭いてもらいスプーンを並べる。
それぞれ自分の皿を運んでもらい、椅子に座ったら皆でいただきますだ。
楽しく話しながらカレーを食べる。この4人が来るまでは、こんなだだっ広い空間で1人だった。
耳が痛くなるような静寂が嫌いで、いつの間にかご飯を食べるのも嫌になってた。今では、うるさいと思えるほど騒がしいこの空間で、一緒にご飯を食べてくれている。

「ぽまえら〜。おかわりもあるからなー。」

そう笑いながら言えば、食べ終わったであろうきょーさんと、口いっぱいにカレーを含んだレウがバッとこちらを向いた。それが面白くて肩が震える。
先にきょーさんの皿を預かりキッチンに戻った。後ろで「レウさんゆっくりでいいよー。」とコンちゃんの声が聞こえる。その後「レ、レウさん!」「水!」などと聞こえた。
多分急いで食べようとして喉にでも詰まらせたのだろう。きょーさんの皿と、水を入れたコップを持って食堂に戻る。

「し、死ぬかと思った…。」

「ダイジョウブ?」

涙目のレウと少し笑いが噛み殺せてないみどりくんの会話を聞きつつ、新しい水を差し出す。
「ありがとう。」とお礼を貰い「どういたしまして」と返した。

「きょーさん、はい。」

「やった!ありがと。」

そのままきょーさんの前におかわりを置いて、自分も席に戻る。
半分ほど減ったカレーにもう一度手をつけた。それから少し、考える。
村でもし乱闘が始まった時、四人には戦わせたくない。確かに強力で強い力を持っているが、それでもデメリットもある。それに、力に頼らず自分でなんとかできる方法も身につけさせたいのだ。
あの村は、俺を追い出してから随分と大きくなったらしい。
話しを聞く限り、闇の方の商業に手をつけ人身売買やらなんやらで稼いでいるそうだ。
全く胸糞な話だ。お前らの家の冷蔵庫に入りに行ってやろうか。
無心でカレーを食べていたため、いつの間にか無くなったことに気づかなかったのか、カチンと音を立ててスプーンを皿にぶつけてしまった。
ハッとして周りを見渡すと、いつの間にか四人は食べ終わっていて、のんびりと雑談をしている。

「あ、らっだぁ食べ終わった?」

「おかわりはもういいや、おなかいっぱいになっちゃった。」

「オイシカッタ」

「皿は持ってったで。届かへんから洗えんけどな」

一人一人順番に話しかけてくる。というか皿、持って行ってくれたんだ。
「ありがとう」と返して俺も皿を持って行く。そこには綺麗に食べられた4枚のお皿が並べてあった。
誰も残してなくて、少し心がポカポカする。皿を洗っている間に、皆にお風呂に入ってもらった。
流石に一人は危険なので二人一組体制だ。みどりくんときょーさんの時がすごい騒がしかった。
逆にコンちゃんとレウの時は静かすぎて、溺れてないか心配だった。
こんな風に人を心配するなんて久しぶりだった。
あの村はずっと大嫌いだったが、今はこの四人を俺にくれたことに感謝しかない。
心の中で悪い顔をしながら、あの村が壊れていく時を楽しみにした。

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