第16話

ログイン15日目
1,167
2022/03/15 07:00
ヤバい…私は今、確実にヤバい状況下に置かれている!!私の脳味噌は全力で警戒のサイレンを鳴らしていた。まさか本当に襲ってくるとは思わないが、彼の目は……本気の目だ。



なんだか怖そうな人だと思っていたし、その気になれば本当に何かして来そうなオーラを醸し出しているから、尚更ヤバいと思った。



なんとかこの体勢から抜け出さなくてはならない。だけど、少しでも動くことを許さないような彼の目が、私の中の僅かな勇気すら削いでいく。



怖い。怖い、怖い…。私が動かなくては、この状況を打破するのは不可能だと分かっているのに、私の心を支配するのは圧倒的に恐怖心だった。こんな恐怖、今まで体感した事がない。



人間は、本当に恐怖に陥ると、その場から全く動けなくなるんだなと思った。どうにもならなかったり、気が大きく動転すると、本当に何も出来なくなるらしい。



ちょっと前に見たドラマで、横断歩道に押し出された女性が、自分の方にトラックが来ることを分かっていながら動かなかったシーンをふと思い出した。



早く逃げなよ!!と思ったが、逃げられるわけがなかった。ドラマの話でありながらも共感してしまった。誠に今更ながら。



今の私には何も出来ない。私の出した結論はそれ1つだけだった。少なくともたった今のこの状態では、私にはどうすることも出来ない。
海山あなた
(だ、だけどこの場で襲われるなんて絶対嫌だ…!)
海山あなた
(どうすれば…どうすれば良いんだろう?一刻も早くなんとかしたいし!)
誰かに助けを求めることは…と思いかけて辞めた。この状況で大声で叫ぶなんて不可能だ。そもそも叫んだところで誰かに聞こえるかどうか怪しい。



生憎スマホもリビングにあるし、どう頑張っても誰かに連絡することも絶対に出来ない。ビックリするほどに救いようがなかった。



私が何も出来ないことを既に知っていたかのように、彼は更に顔を近付けてきた。彼と鼻先がぶつかった。近い…近過ぎる。息すら躊躇ってしまう。震えが止まらなかった。



近過ぎて彼の顔がよく見えなかった。あまりの近さに余計に震え上がった。私の目からは、生暖かい何かが出て来ていた。それが涙だと分かるまで数秒かかった。



彼は、私が泣いていることに気付いて、小さく「ん?」と呟く。その低い声が全身に木霊するように聞こえた。私の中の恐怖を更に煽ったのだ。
承太郎
泣いてるのか
彼は、そう囁くように言った。ビックリして思わず小さな悲鳴を上げてしまった。何か彼の機嫌を損ねてしまっただろうか。どうしよう、襲われたらどうしよう。



彼は少しだけ起き上がると、私の頬を伝う涙を舐めた。ゆっくり、ゆっくりと。舐めたと言うより、もう舐め上げたと言った方が良いかもしれない。



あまりにも突飛な行動に、私は一周回ってフリーズした。

プリ小説オーディオドラマ