帰ってきたら、いきなり。
何かに追われるかの如く帰って行くトッツーに。
慌てて後を追う郁人、その後ろ姿を見送りながら。
シュンっと、うなだれ姿を現したこいつを見て全てを悟った気がした。
(やっぱり、ハァ)
(おいおい…)
ハッと思ったときには遅かった。
(ひろ、ねぇ聞いて俺の話し頼むから)
それから口をきいてくれなくなり夕飯を食べているときも、お風呂に入っているときも無言のまま布団の中へ入り眠りについてしまう。
(ごめん許して、ひろ)
部屋中に重い空気が流れ堪らなくなる傷つけてしまった後悔の念に駆られながら、翌日…
(ガバッ、やっべ)
(えっ)
まずい北山が、そう思い枕元を見て固まってしまう
(いない、嘘だろ!?)
ベットの下、デスクの上、卓上カレンダー、本棚、引き出し、机の下、床の隅々を捜してもどこにもいない。
(マジか、ドドドッ!)
(階段?待て、あいつが独りで降りるにはかなり時間が掛かるってことは、ハッ)
(俺の部屋に?)
(それだ、まさか朝の弱いあいつがそんな早朝に)
(5時間、けどそんな遠くには行ってはないはずだ)
(ひろ、戻って来い独りじゃ危ないから、ひろ)
俺の心臓は張り裂けそうだった、あいつを失ってしまう恐怖に怯え。
・北山side
(太輔、寝たみたい)
モソモソモソ、俺のため少し枕元を明るくしてくれてるから起き上がり傍まで行くと夜中でも綺麗な顔がよく見える。
(俺が一緒にいたら太輔は苛々しストレスが溜まるだろう今日みたいに一方的に怒り俺そんなお前を見たくはないんだ)
それに…
(もう解放してやるよ、ただファーストキスの相手をしてくんない)
その唇へチュッとキスを落とし頑張って下へと降りて行く、そして扉のそばまで行くと「ドアよ開け、ん~開け扉」念じること数時間、願いが通じたのかガチャっと開き。
(あっ、おじさんだ)
えいっとターザンの如くその足へ飛び乗って正確にはしがみつきだけど。
(わわっ、わっ、もちっと静かに歩いて下さい、お願いしーます、ひぇ~落ちる落ちるってばぁ)
ガチャ、バタン!なんとか外へと連れ出してもらい
(さてと…)
目の前に広がる道路、歩いて行ったらどれだけ掛かるのやら。それでも、もう後戻りはできないと再度振り返って。
俺は前へ1歩、足を踏み出し歩いてく独りで生きて行く決心を固め。
それからいっぱい、い~っぱい歩いて「プップッ、プゥーッ、ひやぁ排気ガスすっげぇ毒ガス振り撒いてらぁ」ヨタヨタヨタ…
お腹は空いたし寝てないから身体はくたくたで、辿り着いたところは公園「どこか眠れるところはないかな?」探していると。
(あっ、あんな所に手提げバックがある多分すぐ側で遊んでいる子のだな、ちょっくら拝借よっこらしょ
んーいい感じハンカチが布団がわりになるし)
「こら、そんな所で寝たらダメじゃん」
(太輔がいたらそう言われそ、んふふっ)
そんな事とはつゆ知らず、俺はくぅーすか夢の中。
聞き覚えのある声が、聞こえた…ような気がした「気のせい気のせい、くぅーすか、くぅーすか…」
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!