大吾 Side
「 もー、あなたそこじゃないって、 」
『 っごめん、どこやっけ、 」
こーこ、って手を引いてあなたを移動させる
はっすんの手には、少し力が入ってた。
何度も何度も通して
みんなでピッタリ揃うように繰り返し、繰り返し
「 あなたちゃん、右!右!」
長尾が間違ってるあなたの立ち位置を
教えてあげて、あなたはごめんって正しい位置へつく
「 ちょっと止めてください、 」
曲中で丈くんが突然、音を止めた。
「 あなた、ちょっといい? 」
『 …はい 』
「 俺お前が一生懸命やってるの見てきてるけど
最近色々間違えすぎやし、忘れすぎ。不注意 」
『 はい、 』
「 なんかあった? 」
『 いや、特には 』
どうしよ、と俺をチラッと見てそのまま俯いてしまった
「 俺も、俺も思ってました
あなたちゃん最近変ですよ 」
道枝も、丈くんに連なって声を上げる
『 ごめん、 』
「 ごめんじゃないですよ 」
『 わかってる、 』
「 わかってるなら言ってくださいよ! 」
「 やめ、みっちー 」
流星が、思わずあなたの肩を掴んだ道枝を引き離した
流星は悲しそうな目であなたを見る
「 僕にも言えないことなん? 」
『 … 』
「 大ちゃんは知ってるんやろ? 」
急に振られて、戸惑った。
『 大吾は知らんよ 』
俺が開きかけた口を、あなたの強い声が閉じさせる。
『 ごめん、皆には関係ないことやから 』
そう言って、あなたはリハ場を出た。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。