『 はぁ、 』
やっと1人。
スケジュールを3つこなして、やっと1人になれた。
今日、本当なら3本全部踊る予定やった。
1本目の収録で、出来損ない私の体が力尽きて
私のダンス人生はほぼ終わった。
人の助けを借りなきゃ歩けない体になった。
完全に硬直してるわけじゃない。
でも、自分で歩くことが難しい
左手を支えにして、手すりを使えば
"移動"ぐらいできる
なんか、もう
なんも思わなくなった
受け入れた私の人生を。
『 あ、そういえば 』
この前、丈くんが言ってたこと
" 少年たちでさ、Bring it on 踊ったやん "
覚えてなかった、本当は
話に合わせただけ
もうこれ以上、
丈くんの悲しむ顔は見たくなかった。
『 ほんまや、 』
調べたら、その動画が出てきた
『 踊ってる、 』
両足で立って、
ちゃんと右手も力が入ってて
流星に「 指先まで繊細やなぁ 」って
踊るたび言ってもらってた記憶がある。
私自身も大好きな踊り方をしてる私が、画面の中にいた
たった数ヶ月で私の病気は進行して
今じゃもう踊ること、立ってちゃんと歩くことすらまもとにできない
『 なんで…なんで、 』
画面の中の私に嫉妬して
画面の中の私を恨んで
『 なんで私なん、 』
『 なんで私からダンスを奪うん、 』
決壊した感情は止まることを知らない。
机の上に置かれた鏡に映る私の顔が酷くやつれてて
『 こんなの私やない!!!!! 』
_________ ガシャン !!
鏡は粉々に割れた
まだ鏡を破る力はあるんや、
妙に冷静になって
そのまま少年たちのBring it on を見続けた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!