コンコン、と扉をノック、少し待っては
「どうぞ」と聞きなれた声
コーヒーを片手ににんまりと笑う
松野先生、「どんだけ転べば気が済むの?」
と軽々しく笑われた
「相変わらずお堅いこと」と立ち上がっては
絆創膏を取り出す松野先生を見つめ
目が合えば「ファンサだ」と手を振られる
椅子に腰掛ければ怪我した右足を差し出す
膝がじくじくと傷んでは
しゃがんだ松野先生の消毒液をかけた
ガーゼが当てられ少し顔を歪めた
「ありえない」とそっぽを向くと
「そんな怒るなって、あ、生理?」
なんて。デリカシーの欠片も無い
ぱ、と立ち上がる松野先生
ご丁寧に絆創膏の真ん中に
ねこちゃんが描かれてた
満足気に笑う松野先生は、
こういう時、ちゃんと先生をしてくれる
突然のことに振り返る
長話に捕まらないといいのだけど
「やましいことじゃなければ、全然」と
答えては、扉を開けた
閉まる直前になにか聞こえた気がしたけど
気の所為ということにしとこうか。
小走りに廊下を進んだ、授業中のこと。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!