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第1話

始まりは激しくそして、静寂に
781
2022/02/21 09:39
幕が開く

佐久間 健司
佐久間 健司
俺の歌声に惚れろよ!
伊達 直人
伊達 直人
(相変わらず飛ばしてる…)
彼の掛け声とともに歓声が鳴り響いた。


ここは某ライブハウス。
メジャーデビューを夢見る彼らの箱だ。

佐久間健司率いる「ZEN」はインディーズにも関わらず、チケットはSOLDOUT。
箱の主要人数は200人。
一番後ろまでギチギチに詰まっている。

人気を誇ってる理由は、ボーカル佐久間の音域の広さと、伊達の早弾きだ。
飯沼 駿介
飯沼 駿介
今日も健司カッケー!
石川 桃華
石川 桃華
直人様素敵ー!
神谷 凛
神谷 凛
……二人とも最高
二人の登場に会場の熱気は高まっていく
佐久間 健司
佐久間 健司
行くぞ!聴いてくれ「愛してるだけじゃ語れない」
今日の為に用意した新曲はバラード曲。
初お披露目だ。





ボクに背を向けるキミを

いつまでも目で追ってしまう

キミはボクのことなんか知らないし気付きもしない

いつになったらボクの視線に気づいてくれるんだろう

キミの笑顔や仕草にボクは何度も何度も心を揺さぶられてしまう

でもキミはボクじゃない隣の彼と笑い合っていて

こんなにも切なくて苦しい想いをするなんて
ボクは思ってもいなかったんだ

キミじゃなきゃ感じられなかった心の痛みを
空に半分わけてあげる事にした

キミが笑顔でいてくれるなら
隣はボクじゃなくてもいい

愛してるなんて言葉じゃ語れないくらいに

キミが愛しいんだ

伊達 直人
伊達 直人
(やっぱいい歌詞だよな……)


歌い終えると拍手とともに啜り泣く声も聴こえる。

直人も感極まってるし。
泉 恭子
泉 恭子
グスッ……。いいじゃない…ッ。
一番後ろに立っているいかにもなキャリアウーマン風のスーツを着た女も泣いてやがる。

佐久間 健司
佐久間 健司
皆、聴いてくれてありがとう。でも、暴れたりないだろ?ラストの曲はもう知ってるよな?いくぜ!
地面が揺れる。

「ZEN」の中でもファンに人気のナンバー「裏切り」は縦ノリと折りたたみとヘッドバンキングなど、暴れる要素が満載だ。
佐久間 健司
佐久間 健司
(そういえば今日は、大手音楽会社のプロデューサーが見に来てるんだったな)
ウィンクをすると歓声が鳴り響く。

佐久間 健司
佐久間 健司
今日は来てくれてありがとな。俺の歌声に惚れた奴はまた見に来いよ!
泉 恭子
泉 恭子
(あの子……、なかなかやるわね)
「ZEN」の熱狂的なファンは女だけではなく、男もいて、年代は10代後半から20代後半までと幅広く人気を得ている。
泉 恭子
泉 恭子
(社長に報告しないとだわ)
歓声と悲鳴が入り混じる中、幕を閉じようとしたその時、一瞬だけ俺の目に飛び込んできた人物がいる。
佐久間 健司
佐久間 健司
あれって……、見間違いじゃないよな
ステージからだとよく見えないが、シルエットでわかる。
佐久間 健司
佐久間 健司
なんで……っ
複雑な気持ちのまま、幕を閉じるのだった。

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