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第1話

サックスパートの4人
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2019/10/20 16:02
✩︎4月25日  一年生パート決めオーディション


━︎━︎━︎アルトは真衣と小春、テナーは京香、バリトンは梨花にします。


桜も散る頃、紀採(きさい)中学校の校舎内は、嬉し涙と悲し涙で溢れていた。そんななかでも、一際存在感のある四人がいた。サックスパートに入った四人だった。吹奏楽部全体で一年生は50人入ったが、そのなかで20人がサックスを希望していた。受かる確率はたった20%で、どこのパートよりも倍率が高かった。それで受かった四人。注目を浴びるのは当然のことだった。メンバーの決まったパートは、それぞれ自己紹介を行い、新たなスタートラインに立とうとしていた。

「真衣です。これからよろしくお願いします。私がアルトを希望したのは、サックスの音がかっこよくて好きなのと、仮入部で吹いて楽しかったからです。ちなみに、小学生のときにエレクトーンを習っていました。」

「小春です。よろしくお願いします。私は、お姉ちゃんがソプラノサックス を吹いていて、憧れて希望しました。ピアノを習ってます。」

「京香です。よろしくお願いします。私は仮入部で吹いて、一番楽しかったからサックスを希望しました。ピアノとか、音楽系の習い事はしてません。」

「梨花です。よろしくお願いします。私はバリトンの音がかっこいいと思って、希望しました。ピアノを習っています。」

「上手な一年生が入ってくれて良かった〜。私も去年は緊張したなぁ…。やっぱりいつでもサックスは人気のパートだからね笑笑。あ、自己紹介してないよね。2年生パートリーダー、アルトの環奈だよ。これからよろしくね。分からないことがあったらなんでも聞いてね。」

「はい!」


四人の新たな中学校生活が幕を開けた。


✩︎4月26日 初めてのパート練習

「中学生になってから新しいことばっかりで毎日が楽しいけど、今日はいつもの何倍も楽しみ。こんなに爽やかな朝、初めて。同じアルトになった小春ちゃんとうまくやっていかないとな〜。」

「今日は憧れだったパート練。五つも上のお姉ちゃんをずっと見てきたんだから。ずっと憧れてきて、やっとアルトになれた。オーディションのときは真衣ちゃんは音が綺麗だって言われてたけど、絶対に真衣ちゃんより上手くなって私がソプラノを吹く。絶対に。」

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「一年生はまず楽器決めよっか。バリとテナーは一つしかないんだけど、アルトは三つあるんだよね。えーっと、このYAMAHAと、このヤナギサワと、もう一個の、このヤナギサワ。マッピとリード、リガチャーは今日はこれを使ってね。じゃあ、試し吹きしよう。」

YAMAHA…音程◎、くせがなく吹きやすい。
ヤナギサワ…音程◎、低音や高音もよく鳴る。
(作者の感想です。)

真衣はヤナギサワ、小春はYAMAHAをえらんだ。どちらも迷いはなかった。二人とも、この楽器とともに成長し必ず上手くなってみせる、とでも言いそうな見事な決めっぷりだった。

✩︎4月28日 ウォーム開始

「バリトンは管が長いから、ロングトーン息続かないなー。」

「そっか、バリトン大きいもんね。テナーも息が続かないんだけど、バリトンはもっと大変そう。」

「うん、お互い頑張んないとね。」

「アルトは FとGのピッチが壊滅的だよ…。」

「だよね、FとG何回吹いても全然合わない。あと、音色が思い通りにならない。」

「いやいや、真衣ちゃんは音綺麗だよ?」

「ありがとう。でも、そんなことないよー、先輩綺麗すぎてもうクラリネットみたいだし。あ、良い意味でね。」

「音色はあんまりわかんないけど、バリトンもFとG合わないよ。」

「テナーは、CとかDとかが合わないなー。…ていうか、さっきから全部合わない。何でかな?楽器は壊れてないし…」

「あ!京香ちゃんのチューナー486ヘルツになってるよ‼︎」

「え!?……あ、本当だ。ありがとう。よく気づいたね、小春ちゃん。私全然気がつかなかった。442にしたらいいんだよね?」

「うん、そうだよ。」

「京香ちゃん、どうしたら486になるの?笑」

「笑笑笑笑笑笑」



順調に四人の部活生活はスタートした。このままみんなで楽しくお喋りできる関係でありたい。でも、上手くなりたい。4人が同じ早さで成長しないことは、みんな分かっている。でも、心のどこかでそれを願っている自分がいる。





(続く)

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