第14話

金曜日、消えない想い。
2,394
2022/08/23 23:00
野々宮ゆま
野々宮ゆま
(眠れなかった……)
翌日、ボーッとする体をベッドから起こして、窓から射し込む眩しい朝日に目をやった。
強い光に、目を細める。
一睡もしていない。
昨日、岩下さんからは何度も連絡があった。
『迷惑だったらごめん』
『話だけでも出来ない?』
『せめて、理由を教えてほしい』
そして、最後には着信が。
もちろん、出ることは出来なかったけど。
通知音が鳴るたびにビクついて、スマホを遠くに置いたりして。
だけど……。
野々宮ゆま
野々宮ゆま
(……嬉しかった)
突然告白をして、突然別れを告げて、自分勝手な私を責めることもなく。
野々宮ゆま
野々宮ゆま
(何度も連絡をくれるってことは、岩下さんも少しくらいは私を……)
野々宮ゆま
野々宮ゆま
(……なんて、都合のいいことを考えて、勘違いじゃないなら嬉しいなんて思って)
胸が、ぎゅっと締め付けられるように痛い。
野々宮ゆま
野々宮ゆま
なんでまだ好きなの……
涙声で呟いて、目を閉じる。
まぶたの裏に浮かぶのは、やっぱり彼の笑顔だった。
野々宮ゆま
野々宮ゆま
いってきます……
ママ
えっ、ゆま!? どうしたの、こんなに早く!
さっさと制服に着替えて、いつもより一時間以上も早くリビングへ降りていくと、
ポットに水を入れていたママが、驚きで焦った声を上げた。
朝ごはんの準備を始めたばかりのようだ。
野々宮ゆま
野々宮ゆま
ちょっと早く目が覚めたから、もう行こうかと思って……
野々宮ゆま
野々宮ゆま
(本当は、駅で岩下さんに会わないように、何本も早い電車に乗りたいだけだけど)
ママ
大丈夫? 目が赤いわよ
ママ
ちゃんと眠ってないんじゃない?
野々宮ゆま
野々宮ゆま
ありがとう、大丈夫
ママ
まだ何もご飯準備出来てないから、少し待ってなさい
野々宮ゆま
野々宮ゆま
いいよ、一日くらい。だから、急がなくてもいいから
野々宮ゆま
野々宮ゆま
いってきます
ママ
あっ、待ちなさい、ゆま
ママ
もう……、せめてこれだけでも持っていきなさい
ママに、手にフルーツケーキをひとつ握らされる。

個包装されていて、スーパーのお菓子コーナーで買えるもの。
野々宮ゆま
野々宮ゆま
ありがとう
苦笑いで受け取り、かばんに入れる。
だけど食欲がなくて、それは結局しまいこまれたままになった。
早朝の電車は、不思議なほどに空いていて、すんなり座席に座ることができた。
野々宮ゆま
野々宮ゆま
(見たことない顔ばっかり……)
野々宮ゆま
野々宮ゆま
(いつもの満員電車とは、ずいぶん違うんだな)
眠っていないせいか、ボーッとする。
野々宮ゆま
野々宮ゆま
(そういえば、岩下さんを初めて見かけたのも、電車の中だったんだっけ)
野々宮ゆま
野々宮ゆま
(少し前までは、毎日見る他校の男子だってことしか、思わなかったのに)
明日の今頃には、こんな気持ちも消える。
好きじゃなくなる。
明日の私は、恋をしていない。
その事実に、また涙が出そうになった。
ここにいるはずもないあなたを、探してしまった。

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