(私が、岩下さんを助けたことがある?)
ゆまちゃん、言ったよね。俺が菜月に優しくしてるのが、うらやましいって
はい……
俺はさ、ゆまちゃんが思ってるような、いい兄じゃなかったんだ
菜月が幼稚園に通い始めた時から、俺は頻繁に菜月の幼稚園の迎えを任されていて、放課後に友達とは遊べないし、
その後も結局、菜月の相手をしなきゃいけないし、正直邪魔だと思ってたんだよね
え……
言葉を失う。
今までの岩下さんからは、想像もできない言葉が飛び出したから。
公園で遊んでいたあの笑顔からは、吐かれるはずのないセリフ。
……幻滅した?
いっ、いえ、そんな……。ちょっとびっくりしただけで……
(本当に幻滅はしていなかったけど、ショックだったことは確か)
(顔に出ちゃってたのかな……)
いいんだ、俺も、自分で最低なこと言ってるって、分かってるから
大人げないよな。この歳になって、まだ園児の妹も可愛がれなかったんだから
岩下さんは、ため息混じりに笑って、目の前のカップに口をつけた。
……去年の、五月くらいだったかな。土曜日だった
俺は、いつもみたいに菜月の世話を任されていて、それに嫌気がさしてて
そのせいで、ほんの少しの間、菜月から目を離した。駅の中で、迷子になっちゃったんだ
……すごく後悔したよ。あんなにちっちゃい子どもが、広い駅にひとりぼっちになるんだ。どれだけ心細かったか分からない
菜月ちゃんを思って、辛そうにしている岩下さんを見て、妙に安心してしまう。
(邪魔だと思ってたなんて言ってたのに、ちゃんと心配してたんだ)
(なんだ……。妹思いの、私が知ってる岩下さんのままだ……)
その時、助けてくれたのは、ゆまちゃんだよ
岩下さんと菜月ちゃんの思い出話の中に、いきなり私の名前が出てきて、目を見開く。
え? わ、私?
そう。覚えてない? 迷子の女の子と手を繋いで、駅でその子のお兄ちゃんを探したこと
えーと……?
(去年の春? 私が中学の時に、迷子の女の子……?)
頭の中に、大泣きしている小さな女の子が浮かぶ。
その子が叫ぶのは……。
『おにいちゃーん!』
『おにいちゃん、どこぉ!?』
……あ
思い出した。
中学の時、このお気に入りのワンピースで、駅ビルに買い物をしに来た休日のこと。
泣きながら歩いていた、小さな女の子と会ったことがある。
お兄ちゃんとはぐれたという女の子と、一緒に探して。
……ふたりで見つけたお兄ちゃんが、岩下さんだった?
あの子が……、菜月ちゃん?
そうだよ。ゆまちゃんが菜月と手を繋いで、一緒に俺を探してくれた
ゆまちゃんがずっと励ましてくれたから、あの日の菜月は笑顔でいられたんだ
あの時、ゆまちゃんが、『お兄ちゃんが大好きなんてうらやましい』って、笑って言ってくれた。その笑顔に、嘘はつきたくないと思った
あの日から、ずっと……ゆまちゃんが好きだよ
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編集部コメント
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