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第22話

土曜日、お兄ちゃんは心配性。
1,662
2022/10/18 23:00
私がすっかり忘れていた出来事が、岩下さんにとっては大事な思い出になっていたなんて、思いもしなかった。
野々宮ゆま
野々宮ゆま
私、岩下さんは、友達の妹に告白されて、かわいそうで断れないでいたんだって、ずっと思ってたんです
野々宮ゆま
野々宮ゆま
好きでもないのに、付き合わせてるんじゃないかって
岩下亮平
岩下亮平
ええ? まさか
岩下亮平
岩下亮平
ずっと好きだった女の子が目の前にいて、告白してくれたんだよ。嬉しかったに決まってる
嘘から始まった恋だったけど、この気持ちはきっと……。
野々宮ゆま
野々宮ゆま
私……最初は本当に、お兄ちゃんの嘘に騙されて、ドキドキしていただけだったと思うけど
野々宮ゆま
野々宮ゆま
おかしいんです。ドキドキが治まるどころか、毎日気持ちが大きくなっていって
野々宮ゆま
野々宮ゆま
……好きに、なっちゃいました
野々宮ゆま
野々宮ゆま
岩下さんのことが、好きです
野々宮ゆま
野々宮ゆま
今度こそ、私を本当の彼女にしてくれませんか?
野々宮ゆま
野々宮ゆま
よろしくお願いします……!
テーブルを挟んで、頭を下げる。
同じ人に、二回も告白をする日が来るなんて。
岩下亮平
岩下亮平
もちろん
岩下亮平
岩下亮平
ずっとゆまちゃんだけが好きだよ
岩下さんが伸ばした手が、テーブルの上にあった私の手に重なる。
岩下亮平
岩下亮平
それじゃあ、改めて
岩下亮平
岩下亮平
俺の彼女のゆまちゃん、デートしてくれますか?
岩下さんの手の中には、スマホ。

その画面には、木曜日に誘ってくれた『アニマルランド』の画像。
返事は、もちろん。
野々宮ゆま
野々宮ゆま
はいっ
野々宮ゆま
野々宮ゆま
というか、思ったんですけど、全部お兄ちゃんがややこしくしちゃってるんですよね
私は、アニマルモチーフになっている遊園地のメリーゴーランドを眺めながら、隣の岩下さんに呟いた。
岩下亮平
岩下亮平
んー、まあ、博司がいなかったら、俺はゆまちゃんにいつになったら話しかけられるかすら、分かんなかったからなぁ
岩下亮平
岩下亮平
情けないけどさ
野々宮ゆま
野々宮ゆま
だからって、こんなやり方しなくたってよかったのに
岩下亮平
岩下亮平
博司も、不器用っぽいからなぁ
岩下亮平
岩下亮平
あれでも、かなり心配はしてるんだよ
野々宮ゆま
野々宮ゆま
お兄ちゃんが? ないですよ
岩下亮平
岩下亮平
あれ? ゆまちゃんは知らないの? 博司の発明品って、今まで全部、ゆまちゃんのためのものでしょ?
野々宮ゆま
野々宮ゆま
私のため?
岩下亮平
岩下亮平
うん。最初の……『スカンクスプレー』だっけ? あれは、ゆまちゃんをいじめてた男の子を撃退するためだったって聞いたし
岩下亮平
岩下亮平
あとは……、巨大朝顔? それは、ゆまちゃんが自分の朝顔を枯らして落ち込んでたから、絶対に枯れない朝顔を作りたかったって言ってたよ
岩下亮平
岩下亮平
まあ、実際に作りたかったものとは違うかもしれないけど。それでも、博司の発明ってすごいよね
子どもの頃の自分が、頭の中で泣いている。
野々宮ゆま
野々宮ゆま
(そうだ……、なんで忘れてたんだろう)
野々宮ゆま
野々宮ゆま
(私が言ったんだ。『お兄ちゃん助けて』って)
野々宮ゆま
野々宮ゆま
(それが、始まりだった)
いつも、私ばかりが実験台になる。
その、理由は……
野々宮ゆま
野々宮ゆま
『あーあ、美香には彼氏がいていいなぁ』
野々宮ゆま
野々宮ゆま
『私も、私をずっと好きでいてくれる彼氏がほしい』
野々宮博司
野々宮博司
『よし、お兄ちゃんに任せておけ』
自分の発言を思い出して、私は盛大にため息をついた。
野々宮ゆま
野々宮ゆま
本当に……お兄ちゃんって、バカ
岩下さんは、笑う。
岩下亮平
岩下亮平
仲良いよね、ゆまちゃんと博司って
私は眉を歪めて、つられるように笑った。
野々宮ゆま
野々宮ゆま
……はい
帰ったら、一番にお兄ちゃんの顔を見て、……伝えたい言葉がある。
たくさんの文句と、ひとつの感謝を。

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