第16話

金曜日、消えない想い。③
2,043
2022/09/06 23:00
美香
美香
『明日になったら、好きじゃなくなる』……?
美香
美香
え? 岩下さんって、ゆまの彼氏でしょ? 他校の、ずっと同じ電車に乗っていたっていう……
美香
美香
何言ってんの? どういうこと?
ぐすぐすと鼻を鳴らしながら泣く私に、美香が戸惑いながら話しかける。
野々宮ゆま
野々宮ゆま
……美香には、言ったことあったよね。私に、お兄ちゃんがいるってこと
美香
美香
うん……。あれでしょ? ゆまがよく怒ってる、ちっちゃい頃から発明好きだっていうお兄ちゃん
野々宮ゆま
野々宮ゆま
そう。そいつ
美香
美香
“そいつ”って……。まあ、いいけど
野々宮ゆま
野々宮ゆま
岩下さんはね、お兄ちゃんの友達だったの
美香
美香
あ、そうなんだ
野々宮ゆま
野々宮ゆま
日曜日に、岩下さんがうちに遊びに来て。……その直前に、またお兄ちゃんが私を実験台にしたの
美香
美香
じ、実験台?
野々宮ゆま
野々宮ゆま
今回、お兄ちゃんが作ったのは、“惚れ薬”
美香
美香
……
美香
美香
……ん?
美香
美香
え?
目を丸くした美香が、口の端を引きつらせる。
きっと、私の言葉の先に気づいたのだろう。
美香
美香
え……、まさか……
こくんとうなずく。
野々宮ゆま
野々宮ゆま
飲まされたの
野々宮ゆま
野々宮ゆま
そのあとに、一番最初に見たのが、岩下さん
美香
美香
ええ……?
美香
美香
つ、作れるの? 高校生が?
美香の表情は、疑いが八割くらい。
私だって、そう思っていた。
『お兄ちゃんの作るものなんか、成功した試しがない』って。
野々宮ゆま
野々宮ゆま
でも……
野々宮ゆま
野々宮ゆま
……好きになっちゃった
美香
美香
……
野々宮ゆま
野々宮ゆま
私も、お兄ちゃんの発明品なんて信用してなかったんだけど
野々宮ゆま
野々宮ゆま
薬の力で、好きになっちゃったんだ……
美香
美香
ゆま……
野々宮ゆま
野々宮ゆま
だからね、今はまだ、岩下さんのことをすごく好きなの
野々宮ゆま
野々宮ゆま
でも、それは明日までみたいで……
弱々しくなっていく語尾に気づいたのか、美香が私の手を握った。
野々宮ゆま
野々宮ゆま
昨日、別れてきた。まだ、好きなうちに
野々宮ゆま
野々宮ゆま
……岩下さんは優しいから、私のことなんてきっと好きじゃないのに、まだ連絡くれたりとかして
野々宮ゆま
野々宮ゆま
……っ
野々宮ゆま
野々宮ゆま
それが、……すごく嬉しい
野々宮ゆま
野々宮ゆま
なのに、返事が出来ないの
美香
美香
ゆま……
美香の手が温かくて、また涙がこぼれる。
美香
美香
ゆまは、なんで岩下さんがゆまを好きじゃないって思うの?
美香
美香
本人に、そう言われたの?
私は首を横に振る。
野々宮ゆま
野々宮ゆま
あの人は優しいから、そんなこと言わない
野々宮ゆま
野々宮ゆま
好きなわけないよ。惚れ薬なんかで告白した、心がない私のことなんか
美香
美香
そうかな
美香
美香
別れたあとに何度も連絡くれるなんてさ、優しさとかじゃなく、好きじゃなきゃ出来ないんじゃない?
美香
美香
ゆまはさ、言葉が足りてないよね
美香
美香
岩下さんにも、こうやって話をしてみればいいのに
野々宮ゆま
野々宮ゆま
……美香まで、お兄ちゃんみたいなこと言う……
美香
美香
えっ、ゆまのお兄ちゃんと?
美香
美香
それは、ちょっと遠慮したいなぁ
野々宮ゆま
野々宮ゆま
ふふ……
美香
美香
あはは
美香に話を聞いてもらって、心がずいぶん軽くなった。
その日の夜、岩下さんからまたメッセージが届いていた。
岩下亮平
岩下亮平
『ごめん、しつこくて』
岩下亮平
岩下亮平
『明日、朝10時に駅前で待ってる』
岩下亮平
岩下亮平
『ゆまちゃんが来なかったら、これでもう最後にするから』
──好きじゃなくなるまで、あと……。

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