知ってた……? って、お兄ちゃんの惚れ薬のことを?
そう
知ってて、私と付き合ってくれたんですか?
(ううん、違う。そうじゃなくて)
……知ってたから、かわいそうに思って、恋人ごっこに付き合ってくれたってことですか?
岩下さん、優しいから。どうせ五日で終わるならって?
違うよ!
後ろ向きな思考が止まらない私を、岩下さんが声を張り上げて否定する。
今までに聞いたことがない声量と、少し怒っているような表情に、私は息を呑んだ。
! あ、ごめん、大きな声出したりして
い、いえ、そんな……
(びっくりした……)
……違うんだ。俺は……、俺が、ずっと前からゆまちゃんを好きだったんだ
その瞬間、駅のざわめきがすべて聞こえなくなった。
(──今、なんて?)
っ!!
危ない……!
ドンッと、誰かがぶつかってきて、岩下さんの声と共に、音が戻ってきた。
大丈夫?
は、はい……
肩を大きな手で力強く支えられて、心臓が思い出したかのように騒ぎ出す。
ここじゃなくて、場所を移してもいいかな?
はい……
(どうして?)
(好きの気持ちが、どんどん大きくなっている)
(ドキドキする……)
*
岩下さんと入ったのは、駅から徒歩三分ほどの距離にあるカフェ。
頼んだ甘いココアから立ち上る、温かな湯気が見える。
……
……
お互いに、話し出さない。
黙ってカップに口をつけているだけ。
あのさ
岩下さんが、気まずそうに口を開く。
! は、はい
ごめん。ずっと黙ってて。その……、博司の薬のこともだけど
えーと……
あの日、岩下さんがうちに来たのって、偶然じゃなかったってことですか?
いや……。言い訳みたいになって申し訳ないんだけど、あの日は、惚れ薬のことは本当に知らないで家に行ったんだ
ゆまちゃんのことは前から好きだったけど、博司と仲良くなったのだって、ゆまちゃんが妹だったからなわけじゃないし
博司と仲良くなっていくうちに、ゆまちゃんのお兄さんだって知って。
あの日家に行ったのは、もしかしたらゆまちゃんに会えるかもしれないって、少しくらい考えなかったわけじゃないけど
なんか……、博司にはとっくに俺がゆまちゃんを好きだってバレてたらしくて。
だからあいつ、『ちょうどいいから、惚れ薬飲ませといた』って……
(あのバカ兄!)
(なんだ、『ちょうどいい』って!)
でも、博司がゆまちゃんに飲ませたのは、惚れ薬なんかじゃなかったんだよ
え?
だって……
あの時、私……
今までなんとも思ってなかった、俺にドキドキしたから?
……
私は、ためらいながらも、こくんとうなずいた。
岩下さんは、苦笑いで頬を指で掻いた。
博司がゆまちゃんに飲ませたのはね、ちょっとキツめの栄養ドリンクだったらしいよ
えっ
えぇ!?
(だったら、岩下さんに感じたこの気持ちは、なんだったの……!?)
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