第19話

土曜日、恋の続きは。③
2,000
2022/09/27 23:00
野々宮ゆま
野々宮ゆま
知ってた……? って、お兄ちゃんの惚れ薬のことを?
岩下亮平
岩下亮平
そう
野々宮ゆま
野々宮ゆま
知ってて、私と付き合ってくれたんですか?
野々宮ゆま
野々宮ゆま
(ううん、違う。そうじゃなくて)
野々宮ゆま
野々宮ゆま
……知ってたから、かわいそうに思って、恋人ごっこに付き合ってくれたってことですか?
野々宮ゆま
野々宮ゆま
岩下さん、優しいから。どうせ五日で終わるならって?
岩下亮平
岩下亮平
違うよ!
後ろ向きな思考が止まらない私を、岩下さんが声を張り上げて否定する。
今までに聞いたことがない声量と、少し怒っているような表情に、私は息を呑んだ。
岩下亮平
岩下亮平
! あ、ごめん、大きな声出したりして
野々宮ゆま
野々宮ゆま
い、いえ、そんな……
野々宮ゆま
野々宮ゆま
(びっくりした……)
岩下亮平
岩下亮平
……違うんだ。俺は……、俺が、ずっと前からゆまちゃんを好きだったんだ
その瞬間、駅のざわめきがすべて聞こえなくなった。
野々宮ゆま
野々宮ゆま
(──今、なんて?)
野々宮ゆま
野々宮ゆま
っ!!
岩下亮平
岩下亮平
危ない……!
ドンッと、誰かがぶつかってきて、岩下さんの声と共に、音が戻ってきた。
岩下亮平
岩下亮平
大丈夫?
野々宮ゆま
野々宮ゆま
は、はい……
肩を大きな手で力強く支えられて、心臓が思い出したかのように騒ぎ出す。
岩下亮平
岩下亮平
ここじゃなくて、場所を移してもいいかな?
野々宮ゆま
野々宮ゆま
はい……
野々宮ゆま
野々宮ゆま
(どうして?)
野々宮ゆま
野々宮ゆま
(好きの気持ちが、どんどん大きくなっている)
野々宮ゆま
野々宮ゆま
(ドキドキする……)
岩下さんと入ったのは、駅から徒歩三分ほどの距離にあるカフェ。
頼んだ甘いココアから立ち上る、温かな湯気が見える。
岩下亮平
岩下亮平
……
野々宮ゆま
野々宮ゆま
……
お互いに、話し出さない。
黙ってカップに口をつけているだけ。
岩下亮平
岩下亮平
あのさ
岩下さんが、気まずそうに口を開く。
野々宮ゆま
野々宮ゆま
! は、はい
岩下亮平
岩下亮平
ごめん。ずっと黙ってて。その……、博司の薬のこともだけど
野々宮ゆま
野々宮ゆま
えーと……
野々宮ゆま
野々宮ゆま
あの日、岩下さんがうちに来たのって、偶然じゃなかったってことですか?
岩下亮平
岩下亮平
いや……。言い訳みたいになって申し訳ないんだけど、あの日は、惚れ薬のことは本当に知らないで家に行ったんだ
岩下亮平
岩下亮平
ゆまちゃんのことは前から好きだったけど、博司と仲良くなったのだって、ゆまちゃんが妹だったからなわけじゃないし
岩下亮平
岩下亮平
博司と仲良くなっていくうちに、ゆまちゃんのお兄さんだって知って。
あの日家に行ったのは、もしかしたらゆまちゃんに会えるかもしれないって、少しくらい考えなかったわけじゃないけど
岩下亮平
岩下亮平
なんか……、博司にはとっくに俺がゆまちゃんを好きだってバレてたらしくて。
だからあいつ、『ちょうどいいから、惚れ薬飲ませといた』って……
野々宮ゆま
野々宮ゆま
(あのバカ兄!)
野々宮ゆま
野々宮ゆま
(なんだ、『ちょうどいい』って!)
岩下亮平
岩下亮平
でも、博司がゆまちゃんに飲ませたのは、惚れ薬なんかじゃなかったんだよ
野々宮ゆま
野々宮ゆま
え?
野々宮ゆま
野々宮ゆま
だって……
野々宮ゆま
野々宮ゆま
あの時、私……
岩下亮平
岩下亮平
今までなんとも思ってなかった、俺にドキドキしたから?
野々宮ゆま
野々宮ゆま
……
私は、ためらいながらも、こくんとうなずいた。
岩下さんは、苦笑いで頬を指で掻いた。
岩下亮平
岩下亮平
博司がゆまちゃんに飲ませたのはね、ちょっとキツめの栄養ドリンクだったらしいよ
野々宮ゆま
野々宮ゆま
えっ
野々宮ゆま
野々宮ゆま
えぇ!?
野々宮ゆま
野々宮ゆま
(だったら、岩下さんに感じたこの気持ちは、なんだったの……!?)

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