〔としみつ〕
早くあなたの家に行かなきゃと足取りが早くなる。事務所での仕事が長引いて予定より30分の遅れを取っていた。
としみつ「あと少し…」
この曲がり角を曲がれば、後は少し歩くだけ。急ぎ足で曲がると、あなたのマンションの手前で揉めている人影が見えた。女性が2人。どうやら取っ組み合いにも見える。
俺は助けなきゃ!と走って近寄った。
あなた「とし…みつっ…」
としみつ「あなた!?」
首を絞められていたのはあなたで、俺は急いで女の手を振りほどいた。あなたは苦しそうに地面へ倒れ込む。
としみつ「あなたっ…おい!お前なんだよ」
ストーカー「としみつくんっ、ひどいの、この人が私に言いがかりつけてきて…」
としみつ「あなたがそんなことするわけねぇやん!警察呼ぶぞ!」
ストーカー「…わかってくれないなんてひどいっ!」
そう言って女はどこかへ走っていってしまった。
としみつ「あなた!」
あなた「としみつ…」
2人の傘は地面に投げ出されて前髪にどんどん雫が滴るのが分かる。
あなた「怖かったよ…」
あなたが泣いてるのが辛くて、外だって分かってるのに抱きしめてしまう。幸い雨のせいか通行人はいなかった。
としみつ「ごめんっ…こんなこと…」
あなた「ただ好きなだけなの」
としみつ「…」
あなた「好きなだけなのに、一緒にいるって、こんなに大変なんだね」
2人で座り込んで抱きしめていても、怖くて、辛くて、悔しい。暖かさが届かない。
あなた「家に入ろっか」
としみつ「うん…」
あなたの赤くなったうなじを見て、ただ、辛いだけだった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!