車の急ブレーキの音、頭に受けた衝撃。
一気に視界がぐらつき、目の前が真っ暗になった。
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目を開けると、真っ白な…
「天井…?」
あたりを見渡そうとすると、頭が痛んだ。
「舞!大丈夫?!」
見慣れたお母さんの顔だった。
「お母さん…、私どうしてここに…あっ」
「あなた、交通事故にあったの。車に轢かれた。思い出した?」
早口でそう言うと、私の顔を覗き込んだ。
「思い出した。その時に、頭を打って…目の前が真っ暗になって…」
点と点が頭の中で繋がった。
「そうだ、舞。あなたが目覚めるのをずっと待ってる人がいるのよ、誰だと思う?」
「え、誰だろう…春香?」
「会ったら、絶対嬉しいはずよ。」
そう言ってお母さんは病室の扉を開いて、
「三浦くん、舞、目を覚ましたよ」
と誰かに声をかけた。
「じゃあ、私お医者さん呼んでくるから。」
「舞!」
お母さんと入れ替わりに入ってきたのは、
背の高い、端正な顔立ちをした男の子だった。
「無事で何より。あー、安心した。」
私の頬にあたたかい手が触れる。
なんでこの男の子、私にこんなに馴れ馴れしいんだろう…
どこかで会ったことある…?、
誰…?
「あ、あの!」
男の子の手をゆっくり払い、
「あなた、誰なんですか?」
そう恐る恐る聞くと、彼はにっと笑って自分の顔を指さした。
「冗談言うなよ、俺だよ、俺。」
「えっと…名前は?」
「はー?本気で忘れたとかいうなよ?三浦悠真だって。」
「どこかで会ったことある?」
「いや、毎日!」
どうにか思い出そうと考える。
誰、誰、誰…
「痛っ…!」
頭に激痛がはしった。
「大丈夫か?」
「なにも…思い出せないです。あなたのこと…」
「え…嘘、だろ…事故のせいで?…」
酷く彼は悲しげな顔をした。
そんな彼の表情を見て、ひどく胸が苦しくなった。
思い出したいのに、思い出せない。
彼のことだけ。
彼は、私の“なにか”だったの…?
私は、彼の何だったの…?
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!