第29話

No.29
750
2019/03/17 05:05
トミー
トミー
お待たせ。これでいい?

ホットのカフェラテを
あたしに渡してきた。



大丈夫ですと受け取り、
二人で一口飲む。





寒かったから、
暖かい飲み物が染みる。




あなた

話って?

トミー
トミー
俺さ、実は……


そう言って黙る部長。



何やら難しそうな顔をしていた。








トミー
トミー
俺、転勤になったんだ。
あなた

え?



予想もしなかった言葉。




一気に胸が苦しくなる。





あなた

…どこに、行かれるんですか?

トミー
トミー
本社に転勤になった。




うちの会社の本社は、
上のあたりの県になる。





他県……




苦しくて言葉が出ない。




トミー
トミー
来年からね、行くことが決定したんだ。




あたしの顔を見てくれない。





下を向いて、
寂しそうに言う。








どーしてあたしにそれを……言うの






胸がいっぱいになる。





あなた

なんで……あたしに……

トミー
トミー
だから、時間が無い。




今度はただまっすぐに、
あたしを見る。





トミー
トミー
覚えてないかもしれないけど、俺がまだ平社員の頃、あなたと会ってたんだ。その時から、俺、あなたのことが好きなんだ。



部長があたしを……?




確かにまだ部長が部長じゃなかった頃、
この会社にはいたけど、


部長とは部署が違って、


部長になった時にうちのとこに入ってきた。






会ってた記憶は……ない。



トミー
トミー
やっと同じ部署になれて、嬉しくて、だけど……彼氏がいると知って諦めようとした。



寂しそうな声で、


優しい顔でそう言う。







トミー
トミー
転勤って聞いて、もう会えないかもしれないと知って、自分勝手だけど気持ちだけでも伝えたかった。



今までのことを思い出す。





部長は不器用で、みんなと仲良くて、
仕事もできて、

敵はたくさんいたけど、

それでも憧れてる人もいた。





そんな部長があたしを……









トミー
トミー
答えはいらない。傷つきたくない。だから今日だけ、この時間だけ欲しかった。ただ、あなたと居たくて。




こんな弱々しい部長、
初めて見た。





どう声をかけていいのか、分からない。







トミー
トミー
もう行こう。時間作ってくれてありがとう。



そう言って、
車を走らせた。








沈黙が流れてる間、




あたしはただ胸の痛みに耐えた。








自分でも自分の感情がよく分からなかった。



プリ小説オーディオドラマ