第6話

🌥
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2020/05/16 11:48
佐野梨々花
佐野梨々花
...ただいま....


誰もいない家に向かって、ボソッと帰宅したことを知らせる言葉を言い放つ。


言わずもがな、私が「ただいま」と言ったところで、「おかえり」と言ってくれる人はいない。


その度、酷い寂しさに襲われる。


しかし、ネガティブに考えたって、この生活は何も変わらない。


そんなことは分かっているつもりだった。


でも。


でも。




家族に「おかえり」と出迎えてもらいたい。

毎日家族の手料理を食べてみたい。

家族に誕生日を祝ってもらいたい。


そんな叶わぬ欲望が、私の頭の中でグルグルと駆け巡る。


その時、私はふと気がついた。



佐野梨々花
佐野梨々花
明日、誕生日だ.....



9月2日。私の17回目の誕生日。



これまで16回の誕生日を迎えているが、家族に祝ってもらったことはたった5回ほど。


そんなもんだから、誕生日なんて私の中でどうでもよくなっていた。

いや、どうでもいいと言い聞かせていた。



本当は、心のどこかで、「誕生日くらい家に帰ってきてくれないか」と願っている自分が毎年いた。



無論、今年もそうである。


明日が誕生日だと気づいてから、変な期待で胸がいっぱいだった。




佐野梨々花
佐野梨々花
どうせ、あの人達は私の誕生日なんてどうでもいいんでしょうけど



冷たい言葉を床に向かって吐き捨て、夜ご飯を作る為に台所に立った。



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