このチケットの意味。それは考えなくてもすぐに分かった。だが2枚貰ったとは言え、真里花は気まずい関係になってしまいとてもじゃないが誘えるような状態ではない。
だからと言って私1人でというのも少し考え難い。渋々カレンダーへ目を移した私。お母さん………行ってくれるかな。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
人でギュウギュウ詰めにされた電車内で軽く揉め合う私とお母さん。お母さんと出掛けるのは一体いつぶりだろうか?
お母さんによると、shadowboyとは昔流行った2人組のアイドルユニットの事らしい。アイドルどころか音楽にすらさほど興味のないお母さんですら知っているという事は、そんなに有名な人達だったのだろうか。
お母さんはどこか寂しそうに窓から見える流れ行く街の姿を眺めていた。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
コンサートの会場内は思っていた以上の人集りで、思わず足が竦んでしまう程だった。そもそも東京にすら来たことがなかった私は、駅に降りてから既に混乱状態だったのだけれど。
慌てて両手を振って否定すると、お母さんは退屈そうに「そう」と呟くと、ステージの方へ視線を向けた。
どういう事かと訊ねようと口を開いた私を妨げるかのように、コンサートは開幕した。
絶叫するように叫び興奮する周りの女の子達。その中で私は1人、ただ黙って彼らを見上げていた。
学校では見た事のない輝きを放つ涼介と知念くんに思わず目を奪われていた。それは私の隣で切なそうに彼らを眺めるお母さんも同じだったよう。
どうしてだろう?
学校ではあんなにウザくて邪魔で面倒だった筈なのに………。
明るい様々な色のネオンに照らされた2人は、とてもかっこよく見えたのだ――――。
ふと涼介と目が合った。
彼は満面の笑みでこちらに向かってピースサインを送ってくれた。
涼介のそう言う脳天気でアホらしいくせにたまに見せる男らしさが嫌いだった私。
なのに、この時はそこも含めて全てが好きだと思えたのだ――――。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!