………ねぇシンデレラ。
君の望む結末はこんな感じで良かったのだろうか?
今、俺の隣で眠りにつく彼女に何気なく問い掛けた。が、完全に爆睡中の彼女はただ寝息を立てるだけで、全く反応すら見せなかった。
初めての劇。初めての主役。
そりゃあ疲れて当たり前だよな。
劇が終わり、幕が閉じると同時に俺は彼女を会場から連れ出した。もちろん、ドレス姿のまま。だって、あまりにも綺麗だったから……耐えられなかったんだ。
と説明してみるが、眠っている彼女の耳にその言葉が届く筈がなかった。それは隣で彼女の寝顔を眺める俺が分かっている。
神谷さんに切られたという髪は、肩くらいにまで短くきちんと整えたそうでこの時期とは言えやはり首元が肌寒そうに見えた。
彼女の背中に俺が着ていたジャケットを羽織り、そっと抱き寄せた。ふんわりと彼女の髪から石鹸のような爽やかで清楚さを感じさせる香りが俺の鼻をくすぐった。
もう本当に………。
どこまでお前は罪深い人なんだ?
独り言のように彼女の名前を呟いたのだが、どうやらその声で目が覚めてしまったようで、瞼を半分だけ開けたあなたがぼんやりと腕の中から俺の顔を見上げていた。
寝起きの女の子と言うのは、なぜこうも可愛らしいのだろう。思わず胸がキュンと音を立てた。
あなたの頬を撫で下ろし、耳元で「綺麗だよ」と囁いてやった。
そう。あなたを褒めると殆ど必ず今のように暴言を吐くのだ。
最初は本気で口にしているのかとショックを受けた俺だったが、今となればそれも慣れてしまい、特にこれと言って傷つく様なこともなかった。
顔をサクランボのように真っ赤に染めたあなたが「涼介!」と怒り立てる。そんな彼女の反応が本当に可愛くて、ついつい苛めたくなってしまう。
赤面する彼女の頬を指でなぞった俺は、そっと微笑みながら夕陽に染まる彼女にこう囁いた。
夕陽のお陰でもはや赤面しているのかただただオレンジ色に染まっているだけなのか判断がつかなかった。が、珍しくそっと微笑み返してくれた彼女の表情に何となく満足する俺がいた。
―――まるでシンデレラのような君だった。
そんな君の様々な表情や言動に何度心を掴まれたか分からない。
でも、君のような楽しい人とならば何度だって恋に落ちる事だろう。
俺らは何度も恋に落ち、その度に何度も惹かれ合うだろう。
例え、何十年先も何光年先でも………ずっと。
時に誰かが言った。
恋ってまるで魔法みたいよね、と。
何度解けようとも、また何度だって恋に落ちてしまう。そうして私達ヒトは愛の連鎖を重ねてきたのだろう。
だから………だから。
俺達は今日この時誓った。
オレンジ色に染まる俺とあなたの影が一つに重なった瞬間だった――――。
私の初恋は、まるで魔法を掛けられたようでした。
ーfinー
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。