知念侑李。
あれはとんでもない悪魔だ。
男児っぽく小動物を思わせる可愛らしい顔立ちをしていながら、彼氏どころか好きな人だってできたことのない私にキスなんて……。
まぁ、頬にだけどさ。
私は彼らだけでなくアイドル自体に興味なんてなかった。だって、私が好きなのは――――。
突然鳴り出した電話の呼び出し音で、私はハッと我に返った。
恐る恐るスマホを手に取り着信相手を確認する。山田涼介からだった。
画面の向こうから聞こえてくる彼の声は、実際に耳にしているのとは違い、少しだけ低く甘い感じの声質だった。
そのギャップに思わず胸が弾むも、表には出さずいつもの調子で答えていく。
突然の申し出に、速攻で「無理」と却下した。
即答で却下されてしまった山田涼介は、「なんでだよ……」と声を震わせる。
無意味に声をひそめながら山田涼介は告げたが、残念な事に私はしつこい男が大嫌いだったため、もちろん「無理」と再びお断りする。
真里花からよく少女漫画を貸してもらっては読んでいるが、最近壁ドンというのをあまり耳にしない気がするのだがそれは私だけなのだろうか?
……と言っても、ただ単純に真里花がそういう漫画を持っていないだけかもしれない。
まぁ、真里花は俺様タイプの男性に心惹かれるものがあるらしいから自ら選んで買っていないという理由ではないだろうけど。
いまいち心に引っ掛かっていた疑問を何気なくぶつけてみる。山田涼介は少し照れるように「はは、それが……」と口を開いた。
言葉を濁らせる彼から嫌な予感しか漂ってこない。覚悟を決めるように拳を強く握った私は、身構えながら彼の返事を待っていた。
自信満々に言い放った山田涼介。
恐る恐る少しだけ部屋のカーテンに隙間を作り、そっと外を除き見る。
そこには、彼の言う通り家の前に立つ見るからに怪しげな人影が立っていた。
彼の阿保さがとても目に染みる。
ため息を一つこぼし、渋々私は部屋着のまま自室を後にした。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。