さっき上でしつこいって叱ったばかりだと言うのに、涼介は相も変わらずまだそのような事を問いかけてきた。
何度聞かれたって答えなど変わらないというのに、なぜ何度も訊ねてくるのだろうか。
頬を淡い桜色に染めながら小さく俯き呟いた。
普通、女の子がそんな言葉を不意に告げられたら誰しも私のように顔を赤く染めるに違いない。ましてや相手はあの山田涼介なのだから。
誰もいない静まり返った生徒玄関に響く、私の掠れた声。恥ずかしさで胸がいっぱいになり、今にも溢れ出しそうだった。
なんで……なんでこういう時に限って誰もいないの?
誰でもいい、誰か来てくれさえすれば「この人変態ですっ!」と濡れ衣を着せて逃げられると言うのに。……って違う、そうじゃなくて。
突如低くなった彼の声に思わず顔を見上げた。そこには、真剣な眼差しで私を見つめる山田涼介の姿があった。
逃げ出そうにも私の腕は彼にガッシリと捕まえられており不可能だった。
どんどん私のペースが持っていかれてしまう。耳まで林檎のように真っ赤に染められた私は、とっさに俯きながら「りょ、涼介……」と改めて彼の名前を呟いた。
肉食動物のようにグイグイと来る彼に負け、渋々了承した。次の瞬間、そこらと同じ少年の顔に戻った山田涼介は「よっしゃ!」と拳を挙げた。
山田涼介は、「うおおお!」と雄叫びを上げながら走行禁止の廊下を全速力で駆け抜けていった。
それから間もなく、やれやれと失笑する私の前に3人の人影が姿を現した。スマホに視線を落としていた私がゆっくりと顔を上げると、そこには先程の3人が相変わらずの並び順で仁王立ちしている。
先に口を開いたのは私の方だった。
素っ気ないその問いかけに、神谷さんは眉間にシワを寄せ「何その生意気な態度」と睨み付ける。
神谷さんの一言に、「そうだよそうだよ!」と堀さんと佐々木さんが同意し、便乗する。
……アンタらはコーラスかなんかか。
なんだその理屈。
いまいちよく分からなかったが、それはきっと彼女らが馬鹿なだけなのだろうと解釈する事にした。
そんなどうでもいい侮辱はどうでもいいから早く言えよと、軽く舌を鳴らして催促して見せた。
どうやらそのせいで更に火がついてしまったらしい3人が「はぁ?」と声を荒らげながら私を横目で睨み付け、代表してか神谷さんがこう言った。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。