ふと神谷さん達の口から出たあなたちゃんの話に思わず耳を傾けた僕は、何となくだがモヤモヤとした気持ちに襲われた。
真里花ちゃんの名前も出たと思えば、親友だの渡しただの、一体何を話しているのだろうか。
3人の間に割って入って「何の話?」と訊ねる事も考えてはみたが、そうした所であの子達が素直に教えてくれるかと言われれば何も返せないので辞めておく事にした。
最後にはそんな言葉も耳にしたが、涼介に呼ばれた僕はさほど気にする事はしなかった。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
僕と涼介は最寄り駅までは同じ道を帰るため、どちらかに用事がなければいつも一緒に帰っている。そのため、今も気を利かせてくれた涼介がわざわざ声を掛けてくれたのだ。
あの3人の事が少し気になったが、あなたちゃんの事を想っている僕の聞き間違いかもしれない。
どうしても気になるようなら明日にでも聞いてみればいいや。何となくそう思った僕は、「待って!」と涼介の背中を追った。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
何気なく涼介に訊ねてみた。
涼介はこちらに顔を向けること無く、背中越しに「ああ」と一言呟いた。
気付いた、とは一体なんの事だろう。
反射的に聞き返した僕に、涼介は「あれ、知らねぇの?」とくるりと身体をこちらに向けた。
では、全く気付かなかった僕は今まであなたちゃんの事をあまりよく見てあげられなかったのだろうか。
そんな不安に駆られながらも恐る恐る「涼介はなんで分かったの?」と問いかけてみた。
それだけ彼女の事をよく見れてなかった。という事だろうか。僕は今まで何をしていたんだろう………。
僕に背を向けた涼介は、静かに「もちろん俺も助けてやるけどさ」と呟いた。僕らは一応恋敵な訳だが、これでも長い間二人でアイドルをやってきた仲だ。
僕らはシンデレラを守るために、少しでも力を合わせなければ――――。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。