ドヤ顔で私達にそう語り付けた伊野尾先生だったけど、それサボリとほぼ同じ状況じゃないかと私は落胆した。
いや、階段から落ちそうになったという所まではいいが、“救急車”って言ったって先生に伝わるはずがないじゃないか。
変に誤解されてしまっては困るため、慌てて弁解を試みようと口を開いた私だったが、その声は伊野尾先生の「なるほどね!」に掻き消された。
……この人達の脳内環境というのは一体どうなっているんだろう。
一般の常識的な脳をしている人なら絶対にわかり得ない事を、この2人は意図も簡単に通じ合ってしまうんだから、なんだか怖くなってしまった。
それは絆創膏がもったいないのでは……。
と考えている内に、山田涼介は痛みどころか傷すらない私の膝に絆創膏を貼ってしまっていた。
もうこの人たちには着いていけない………。
恐る恐る保健室の扉を開けて逃げ去ろうと後退り、扉を開けようと手を掛けたその時――。
突然開いた扉から姿を現したのは知念くんだった。
扉に軽くもたれかかっていた私は、思わず身体を倒しそうになるも知念くんが支えてくれた事により、それは何とか間逃れた訳だけど。
支えてくれている知念くんを見上げると、そこには真剣な眼差しで私を見つめる彼の姿があった。
顔が近いからか、耳まで真っ赤に染めながら「ごっ、ごめん……!」と慌てて身を離した。
どうやら私と山田涼介が抜け出した事に心配してくれたらしく、仮病を使いここまで探しにきてくれたようだった。
知念くんが指さした先には、ドヤ顔で「はんっ!」と両腕を組む山田涼介の姿があった。
どこかで似たような台詞を聞いたことがあるような気がしながらも、まるで他人事のように「へぇ」と呟いた。
知念くんに身体を引き寄せられ、私の身体は再び彼の腕の中へと吸い込まれた。
後ろから抱き締められるような形になっているが、洋画なんかによくある
『こいつがどうなってもいいのか!?』と言うような人質の気分になりながらも、彼ら2人のお馬鹿劇場を知念くんの腕の中から眺めていた。
そんな私達の後ろで、知恵の輪どころでない伊野尾先生が困惑しながら頭を抱えていた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!