真里花、一体どうしたんだろう?
机に身体を預けながらぼんやりと考える。
神谷さん達といい、真里花といい今日は何だか皆おかしい気がしてならない。いや……おかしいのは、もしかしたら彼女らではなく私の方かもしれないけれど。
どうする事もできず、虚しさだけが私の口からため息と共に零れだした。が、そんな事でその気持ちが晴れることも無く、ただもやもやとする心の埃(ホコリ)のようなものが引っ掛かっている。
まだ教室に残っている男子生徒の楽しくはしゃぐ声が耳障りで仕方なかった私は、堪らず鞄の中に入れられたイヤホンを取り出し耳を塞いだ。
スマホを開き、本体内にインストールされた音楽アプリを起動させた。何を聴こうにも、保存された曲などさほど多くはないため、選択肢は限られてくる。
何気ない気持ちで画面を走らせていた私は、ふと目に入った“ある曲”を選択した。
それは、4人組の人気ロックバンド“RADWIMPS”の楽曲である『いいんですか?』というゆったりとした曲調が特徴のラブソング。
随分昔にリリースされたものらしいが、今でも結婚式などで使用されているとネット上には書かれていた。
きっとこの曲を購入した時は私も、この曲調か歌詞に惹かれたんだろうけど、恋愛に消極的な今の私にはその歌詞はあまり響いては来なかった。
けど。
男子との会話から抜けてきたらしい知念くんが、わざわざ私の前席のイスを借り腰掛けたのだ。
目の前に突然現れた彼の姿に驚いた私は、とっさにイヤホンの片耳を外し、その名前を呼び付けた。
スパークルは確か、2016年に世界的にも空前の大ヒットをしたあの『君の名は。』という映画の挿入曲……だっただろうか?
なんだろうと、わざわざ真剣に考える知念くんが何だかとてもおかしくて、先程まで抱いていたモヤモヤ感は一気に晴れていった。
思わず笑いがこみ上げ「あははっ」と声を出して笑う私に、知念くんは驚いたように目を丸くした。
それまで私、一体どんな顔をしていたと言うのだろう。きょとんと彼を見つめる私に、知念くんはどこか困惑するかのように苦笑しながら続けた。
確かに、思えば初めはとても迷惑だし、なにより2人が私に向ける嘘か本当かも分からない好意が鬱陶しくて仕方なかった。
でも……最近はそんな2人にも慣れ、内心特に「嫌」と感じる事はあまりなくなったように思えた。2人の好意は別として。
知念くんは私の片耳に付けられたイヤホンを指差した。どうやら当てるのは諦めたらしい。
先程外したイヤホンの片方を彼に渡すと、「やったねー」と笑みを浮かべながらそれを右の耳に付けた。
少女漫画のようなシチュエーションに、胸のドキドキが止まらない。知念くんに聞こえたら絶対に騒ぎ出すからできれば聞かれたくないけど………。
不意に見せるその可愛らしく優しい笑顔が、ずっと押し込めてきた“恋”の扉を何度もノックしてくるから、
………時に、どうしていいのか分からなくなる。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!