第13話

……っ、馬鹿。
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2018/02/16 10:32
あなた

んー……よく寝たぁ

1限目が無事終わり、私は大きく腕を広げ身体を伸ばした。
その隣で山田涼介がソワソワと落ち着かない様子で机の上に置かれた大量のノートを見つめていた。
あなた

どうしたの?

山田涼介
山田涼介
……えっ、ああ……それがさ
どうやら英語のノートの提出を伊野尾先生から依頼されたらしく、その回収と先生の元へ運ぶ係を山田涼介が引き受ける事になってしまったらしい。
あなた

……私待ち?

山田涼介
山田涼介
いや、あなたもそうだけど真里花ちゃんもね
山田涼介が指さした方には、頭を抱えながら「わかんないよこんな問題!」と叫んでいる。

問題……。ん、問題?
あなた

も、問題って何?

山田涼介
山田涼介
あーこれだよ
山田涼介は自分のノートを私に差し出し見せてくれた。

彼のノートは、シャーペンだけでなく他の色ペンもきちんと使用し、綺麗にまとめられていた。あ、意外とマメなんだ。と関心しながらも、問題にされているという文に目を通した。
あなた

……は?

そこには“ビターチョコは初恋の味(星)”と書かれていた。なんだこれ。こんなの授業と全く関係ないと思うのは私だけだろうか?


顔をしかめながらじっとノートと睨めっこする私に、山田涼介が「意味わかんないだろ?」と軽く笑った。
山田涼介
山田涼介
俺はグーグル使うけどな!
あなた

……ズルい

山田涼介
山田涼介
ちゅーしてくれたら見せてやってもいいぞ!
さぁ、こい!と両手を広げ身構える山田涼介を睨みながら「絶対無理!」と思い切り彼の手の平を叩いてやった。
山田涼介
山田涼介
痛てぇし!なんか酷くねぇか!?
あなた

知らない知らない!

山田涼介にキスするくらいなら自分で調べた方がうんと早いし楽だ。だがそれと同じくらいスマホを開く事が面倒で、なによりも眠たくて仕方なかった。
山田涼介
山田涼介
あっ!どこ行くんだよ〜っ!
あなた

着いてこないでぇっ!

1人で静かに保健室かどこかで昼寝でもしようかと思ったのに、山田涼介が着いてきたら計画が台無しだ。

そもそもただの思い付きというだけで、計画なんてものは何一つなかったのだけれど。
人間、一度サボる事を覚えてしまうとクセになって仕方ない。
現に私も昨日サボったせいかとても授業に身が入らないし、とにかく寝たい。
山田涼介
山田涼介
やだ着いてく
あなた

だめだって本当に……っ!

山田涼介
山田涼介
何で?
あなた

なんでって………

必死に理由を考えてみるも、イマイチこれと言って正当な言い訳が浮かんでこない。

「うーん……」と唸りながら後ろ歩きしていた私は、背後がすぐ階段になっている事に気付かず、足を踏み外してしまった。
山田涼介
山田涼介
――っ!あなた!
あなた

―――えっ

とっさに彼が私の腕を取ってくれたことで、無事に大事は防げた。が、山田涼介は後ろへ反っている私の身体をそのままギュッと抱き寄せてきた。
山田涼介
山田涼介
……大丈夫?
あなた

……っ、うん

山田涼介
山田涼介
よかった……っ!………んとに危ねぇから……
あなた

ごっ、ごめん………っ

私の身体を強く強く抱き締めている山田涼介は、優しく頭を撫でながら大きく安堵の息をついた。

いつもなら拒む私だけど、助けてくれたこともあってか彼を引き離す事はできず、されるがままに抱き締められていた。
山田涼介
山田涼介
……ったく、怪我は?
あなた

な、ない……っ

私の身体をゆっくり引き離すと、やれやれと呆れながらも優しく微笑む山田涼介の顔が、1段下がっている私を見降ろした。

山田涼介は私の目線に身長を合わせるように膝を曲げると、「よかった」と再び私の頭を撫でた。
山田涼介
山田涼介
本当、気をつけろよ
あなた

う、うん……っ

山田涼介
山田涼介
………まぁ、今度コケそうになっても俺が助けるけどさ
あなた

―――え……っ

私の横を通り過ぎる間際、山田涼介はポンポンと私の頭に優しく手を乗せた。

少女漫画なんかでよくある恥ずかしいシチュエーションに、耳まで真っ赤に染めながら、階段を降りる彼に大きく叫んだ。
あなた

あっ……ありがとう!

山田涼介
山田涼介
…………おう!
ピースサインを私の方に突き出し満面の笑みを見せた彼に、思わず胸がキュンと締め付けられるのを感じた。



やだ………

ドキッとしちゃったじゃん、馬鹿。

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