まるで恋人同士のようにピッタシと腕を組む知念くんが首を傾げた。
こんな事じゃ私と知念くん、どっちが男で女なのか分からないじゃない………。
やっと離れてくれたかと思うと、私の目の前へと飛び跳ねて来ては「……だめだった?」とあざとく上目遣いをした。
……この小悪魔め、なんて恐ろしいんだ。
「あなたちゃん大好き!」と両手を広げ、私の身体を抱き締め再び飛び跳ねた。
私の問い掛けを無視し、知念くんは手を引きながら昼間の街中を駆け抜けていった。
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気付けば見覚えのない静かな住宅街へと辿り着いていた。あれからどれだけ歩いて来たのだろう。
住宅街という名前の通り、辺りには新築のような雰囲気の外観の家々が建ち並んでいた。
知念くんは「ふふーん……」と何か企むように口角を釣り上がらせながら私に目を向ける。
自信満々な笑顔で指差したそこは、築20年ほど経っていそうなそこまで新しくもないただの一軒家だった。
時が止まったかのように私の表情が固まった。
大理石のような、立派な素材で作られている表札を確認すると、そこには確かに“知念”という名前が彫られていた。という事は、本当にここは知念くんの家なのだろう。
驚きのあまり声がひっくり返った私など気にもせず、知念くんは手を取り中へと連れ込んだ。
一歩玄関へと足を踏み入れると、ふんわりとしたフレッシュな檸檬の香りが私を優しく包み込む。
……うん、いい香り。
広々とした玄関の左奥には木製の幅広い階段。その手前には台所と思われるガラスの引き戸の部屋。その向かいはきっと居間なのだろう、襖の扉がそこにあった。
って、そうじゃない。
どうして素直に上がろうとしているんだ私は。
チラリと玄関に上がった知念くんを見上げた。「どうしたの?」と微笑みを浮かべる彼からは下心のようなものは何も感じやしない。
不安ばかりと言うかもはや不安しか感じないが、彼の見せる笑顔を信じて恐る恐る靴を脱ぎ一歩足を踏み出した。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。