無事2人に校舎を案内した私は、ようやく自分の教室へと戻ってこられた。
……けど、彼ら2人のせいで私は先輩や後輩、そして同学年の生徒にさえ大いに注目されてしまった。ああもう最悪だ。
机にうなだれる私に、2人が心配そうに歩み寄ってくるが、そもそもここまで私を困らせているのは彼ら自身だというのに。
とても照れ臭くなった私は、とっさに視線をずらした。
私の隣で突然大声を上げながら立ち上がった山田涼介は、知念侑李に「悪い!」と手を合わせた。
慌てふためきながら教室を勢いよく飛び出した山田涼介の背中に私は軽く手を振って送り出した。
……さて、これで教室には知念侑李と2人きりになってしまった訳だけれども。
私の方から男の子に話題を振るのはきっと彼が初めてかもしれない。自分でも結構驚いた。
ふと、グリム童話の『シンデレラ』という話を思い出した。
確かあの童話でも、主人公であるシンデレラという名前の少女は継母とその娘である義理の姉達からまるで使用人のようにコキを使われていたはず。
舞踏会で踊った王子の愛のおかげでやっと幸せな暮らしが出来た彼女だが、山田涼介もまたシンデレラにどこか重なる点があるような気がして思わず鼻で笑った。
散々コキ使われている山田涼介だって、“アイドル”という魔法の力でpure×lovelyに成れる。
シンデレラもまた、魔女の魔法のおかげでただの使用人からお姫様へと成る事ができたのだ。
私一人で勝手に納得してはクスクスと声を堪えながら笑う私を見ていた知念侑李は、眉間にシワを寄せながら口元を覆っていた私の両手を引き寄せた。
恐る恐る聞き返す私へ顔をゆっくりと近づける知念侑李。推測が及ばず、困惑する私の頬へと彼は軽く口付けした。
不測の事態に、動揺が隠せない。
静かに脈を打っていたはずの心臓は、苦しくさせる胸の圧迫感と共にバクバクと大きな音を立てながら緊張感を知らせた。
……って、なんで私こんなドキドキしちゃってるの……ッ!?
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!