第36話

お母さん……!
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2018/03/20 13:48
あなた

………まぁまぁ良かったね

お母さん
お母さん
あら、そう?
貴方はどっちが良かったのかしら?
あなた

ど、どっちって何よお母さん!?

コンサートが終わった会場内に私の声が少し響いた。

あれだけ彼らのファンである女の子の絶叫に近い歓声で賑わっていたはずなのに、今ではもう白けたような表情でそそくさと会場を後にする女の子で溢れており、その温度差はまるで先程までの一件が全て夢だったかのようだった。
あなた

………なんか寂しいね

お母さん
お母さん
そうかしら?
案外こういうものよ
あなた

そ、そうなの?

お母さんは一部始終、誰よりもずっと白けた顔をしていた。17年間生きてきて、未だに満面の笑みで笑ったお母さんを見たことが無い気もした。

私に見せる表情と言ったら、今のような素っ気ない顔か、寂しげな顔。もしくは悲しそうに微笑むくらいだった。
あなた

私達も行こっか

お母さん
お母さん
そうね、行きましょう
会場を後にしようとする女の子達の列に並び、その時をぼんやりと宙を眺めながら待ち続けた。

その間にお母さんとの会話があったかと聞かれると全く無かった。昔は接客業をしていたと言うから、会話には困らないはずのお母さんだが、年々人と会話を交わすことが減っているように思えた。
あなた

ごめんね、連れてきちゃって

お母さん
お母さん
いいのよ、別に。
それよりも……………あの子達はいいのかしら?
お母さんの指差す方を振り返ると、そこには列の一番後ろにさり気なく並ぶ涼介と知念くんの姿があった。

思わず彼らの名前を口にしそうになった私だが、そうしてしまった後の混乱というのは想像がつかないくらいのものな気がした私は、ここは一つ遠慮しておく事に決めた。
あなた

お母さんも行こ?

お母さん
お母さん
…………少しだけよ
こっそりと列から外れると、1歩ずつ出口へと向かう彼女らの横を逆走しながらステージの方へと向かった。ここらの段差は普通の学校や駅のとは違い、だいぶ低く広く造られているため、なかなか歩きにくかった。
あなた

おつかれ………ッ!

お母さん
お母さん
どうも
敢えて名前は出さずに、あまり周りの人間に聞こえないよう最低限声を潜め、小さく手を振ってやる。すると涼介や知念くんもまた、胸の辺りで小さく手を振り返してくれた。
山田涼介
山田涼介
まさか本当に来てくれるとは思ってなかったよ
あなた

まぁ………あそこまでされたらね
でもLINE送ってくれればいいのに、もしお母さんが気づかなかったら気付かずに帰ってたよ

知念侑李
知念侑李
へー………気付きたかったの?
顔を真っ赤にさせながら必死に否定する私の後ろで、お母さんがクスクスと鼻で小さく笑った。
山田涼介
山田涼介
とりあえず覗いてく?
楽屋でも………
あなた

お断りします!

お母さん
お母さん
あら、私はいいわよ?
お母さんだけは私の味方をしてくれると思っていたのに。思ってもいなかったお母さんによる裏切り行為のお陰で彼らの楽屋へ連れて行かれる羽目になってしまった。

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