コンサートが終わった会場内に私の声が少し響いた。
あれだけ彼らのファンである女の子の絶叫に近い歓声で賑わっていたはずなのに、今ではもう白けたような表情でそそくさと会場を後にする女の子で溢れており、その温度差はまるで先程までの一件が全て夢だったかのようだった。
お母さんは一部始終、誰よりもずっと白けた顔をしていた。17年間生きてきて、未だに満面の笑みで笑ったお母さんを見たことが無い気もした。
私に見せる表情と言ったら、今のような素っ気ない顔か、寂しげな顔。もしくは悲しそうに微笑むくらいだった。
会場を後にしようとする女の子達の列に並び、その時をぼんやりと宙を眺めながら待ち続けた。
その間にお母さんとの会話があったかと聞かれると全く無かった。昔は接客業をしていたと言うから、会話には困らないはずのお母さんだが、年々人と会話を交わすことが減っているように思えた。
お母さんの指差す方を振り返ると、そこには列の一番後ろにさり気なく並ぶ涼介と知念くんの姿があった。
思わず彼らの名前を口にしそうになった私だが、そうしてしまった後の混乱というのは想像がつかないくらいのものな気がした私は、ここは一つ遠慮しておく事に決めた。
こっそりと列から外れると、1歩ずつ出口へと向かう彼女らの横を逆走しながらステージの方へと向かった。ここらの段差は普通の学校や駅のとは違い、だいぶ低く広く造られているため、なかなか歩きにくかった。
敢えて名前は出さずに、あまり周りの人間に聞こえないよう最低限声を潜め、小さく手を振ってやる。すると涼介や知念くんもまた、胸の辺りで小さく手を振り返してくれた。
顔を真っ赤にさせながら必死に否定する私の後ろで、お母さんがクスクスと鼻で小さく笑った。
お母さんだけは私の味方をしてくれると思っていたのに。思ってもいなかったお母さんによる裏切り行為のお陰で彼らの楽屋へ連れて行かれる羽目になってしまった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。