ちょうどいいタイミングで現れた涼介は、3人の女子に囲まれている私を1目見るとそう静かに呟いた。
置き勉。それをするのは大体が頭の悪い人だと昔何かで教わった気がする。それが漫画だったかアニメのようなものだったのか、思い出せないけれど。
まぁ、涼介の顔面からは偏差値の低さがヒシヒシと伝わってくるからそれに関しては納得がいく。
分かりやすい作り笑顔を浮かべながら、神谷さんが「う、うん!」と無駄に強調させた胸の前で小さく手を振って私達を見送ってくれた。
もちろんだが、今のような事では私を怯ませるなんて無理だ。本当はそれはやめて頂きたい所だが、一応肝に銘じて置くのも大事なんじゃない?
と背中越しに彼女に向かいふふ、と小馬鹿にしてやった。
私の知らない所で、悪魔達がクスクスと鼻で笑い合っていた。
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山田涼介によって連れてこられたのは、学校の裏にある小さな公園だった。公園とは言え、そこはもう人など誰も来なさそうな藪の中にあった。
なぜ彼がこんな所へ私を連れてきてのかはさて置き、その場所はいかにも何か良くないモノが出そうなどこか不気味な雰囲気を漂わせていた。
古びて使用出来なくなった錆び付いた滑り台に、片方鎖の取れている座れやしないブランコ。砂場と思われるそこはもう、落ち葉や枯葉に埋め尽くされており、その存在の真相はもはや確かめようがない。
今とても彼に対して殺意が湧いてきたのだが、彼には敢えて何も告げない事にしておく。
確かに私はホラー映画や映像のようなものは平気だが、こういういかにもな場所に訪れるのはあまり好みではなかった。
私だってそれはただの冗談だというのに、わざわざ必死になってくれるなんて。やはり意外と可愛い所はあるらしい。山田涼介にも。
思わず笑いがこみ上げてきた私は、ははっと軽く声に出して笑いながら「ごめんね」と涼介を横目で見やった。
大きく頬を膨らませた涼介は、私に背中を向け元来た道を引き返そうと歩き出した。
きっとそれが彼なりの“意地悪”だとどこかで気づいていながらも、この場の雰囲気に負かされ恐ろしくなった私は、とっさに彼に駆け寄りブラウスの背中部分を思い切り両手で掴んだ。
“怖い所に1人は嫌”――――。
さすがにそれは恥ずかしさと私のプライドが許さなかった。真っ赤に頬を染めながら、こちらを振り向く彼に「お願い……」と目を潤ませながらそう願った。
山田涼介もまた、耳まで真っ赤に火照っていた。
口元をその大きく男らしさの伝わる手で覆い隠しながら、「そ、それは………ッ」と視線を逸らしそう呟いた。
きょとんとさせた私の間抜け面にチラリと視線を送った涼介は、「――ッ」と悶えながら何か困惑するかのように身体をそわそわさせた。
私の腕を強く引き寄せた山田涼介の腕の中へと吸い込まれていく私の身体。一瞬だが状況が把握できず思わず目を丸くさせながらソレを黙って見届けた。
彼の反則という言葉の意味は分からなかったが、なぜだか彼に抱き締められても全くと言っていい程“嫌”な気持ちにはならなかった。
そう、むしろ――――――。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。