その後、ほぼ無理矢理という形で連絡先とlimeを交換させられた私は、ようやく彼らの手から解放され無事家へと帰ることが出来た。
あの件のせいで、昨日は全く眠れなかった。
お陰で今日は寝不足らしく、登校してきて早々尋常でない程の眠気が私を襲って来ていた。
真里花の顔を見ると、自然とあの2人の事をを思い出してしまう。
親友に対してこれは失礼だが、正直顔を見るのが辛いと思えて仕方ない。
さて、ここで正直に「山田涼介からもらった」と言うべきか、敢えて嘘をついて「買ってきたよ」と渡すか。どちらの方が安全だろう。
と言っても考えることさえままならないくらいに、私の脳は睡眠を求めているようだった。
すぐさま思考を放棄して、私はCDを無言でサッと彼女に渡した。
しまった。
そう言えばCDには“何とか限定盤”とか言うのがあると、以前真里花から聞かされていた。
が、どうやら昨日私がもらったソレはこの街では手に入らない希少ものらしかった。
仕方なく白状しかけたその時。
いつもより少し早く教室へと入ってきたのは、担任の伊野尾先生だった。
今日も遅刻しかけたのか、きのこ型の髪はいろんな方向へと跳ね上がっているし、ネクタイも少し右の方へと曲がっている。
男子生徒が、小馬鹿に笑いながら先生へ問いかけた。
このクラスの生徒にとって、伊野尾先生は“いじられキャラ”だった。
一見、先生として見られていないように聞こえるが、これでも皆天然でツッコミどころの多い伊野尾先生の事が大好き。
先生の“目覚ましが鳴らなかった”は少し嘘だ。正確には鳴らなかったのではなく、聞こえなかったんだ。
そう言えば、朝来た時から私の両隣りに机と椅子が増えていた。
最初は気のせいかと気にしないで置いたが、やっぱり気のせいとかではなかったらしい。
教室内がザワつく中、扉を開けて入ってきたのは見覚えのある金髪の男の子と茶髪の男の子。
いや、見覚えがあるとか言う以上に、昨日私を散々な目に遭わせた“あの2人”だった――。
教室内に歓声が響き渡る中、私は一人愕然としていた。
少女漫画や携帯小説などでありがちのシチュエーションが、まさか本当に起こるなんて………。
空いてる席なんて言ったら、私の両隣りしかないじゃん。
……ああ、もうなんだか頭が痛いや。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!