第6話

走れメロス 6
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2020/05/28 08:25
山賊
待て。
メロス
何をするのだ。私は陽の沈まぬうちに王城へ行かなければならぬ。放せ。
山賊
どっこい放さぬ。持ちもの全部を置いて行け。
メロス
私にはいのちの他には何も無い。その、たった一つの命も、これから王にくれてやるのだ。
山賊
その、いのちが欲しいのだ。
メロス
さては、王の命令で、ここで私を待ち伏せしていたのだな。
 山賊たちは、ものも言わず一斉に棍棒こんぼうを振り挙げた。メロスはひょいと、からだを折り曲げ、飛鳥の如く身近かの一人に襲いかかり、その棍棒を奪い取って、
メロス
気の毒だが正義のためだ!
と猛然一撃、たちまち、三人を殴り倒し、残る者のひるむすき、さっさと走って峠を下った。

 一気に峠を駈け降りたが、流石さすがに疲労し、折から午後の灼熱しゃくねつの太陽がまともに、かっと照って来て、メロスは幾度となく眩暈めまいを感じ、これではならぬ、と気を取り直しては、よろよろ二、三歩あるいて、ついに、がくりと膝を折った。

 立ち上る事が出来ぬのだ。天を仰いで、くやし泣きに泣き出した。

 ああ、あ、濁流を泳ぎ切り、山賊を三人も撃ち倒し韋駄天いだてん、ここまで突破して来たメロスよ。真の勇者、メロスよ。今、ここで、疲れ切って動けなくなるとは情無い。

 愛する友は、おまえを信じたばかりに、やがて殺されなければならぬ。おまえは、稀代きたいの不信の人間、まさしく王の思うつぼだぞ、と自分を叱ってみるのだが、全身えて、もはや芋虫いもむしほどにも前進かなわぬ。

 路傍の草原にごろりと寝ころがった。身体疲労すれば、精神も共にやられる。もう、どうでもいいという、勇者に不似合いな不貞腐ふてくされた根性が、心の隅に巣喰った。

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