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第1話

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2018/09/05 13:03
瀬尾
瀬尾
おい、野々宮
野々宮
野々宮
あ?なに?
夢中でデスクに向かっていた
野々宮に瀬尾が声をかけた。
瀬尾
瀬尾
お前、残業してくのか?
もう7時だぞ
野々宮
野々宮
あ"ー…マジか、帰るわ。
お前も?
瀬尾
瀬尾
おう
野々宮
野々宮
なんかお前最近上がんの
早えな。なんかあんの?
あ、この間拾ったって言う
居候?
瀬尾
瀬尾
拾ったって…犬や猫じゃ
ねえんだから。まあ、確かに
玲央がいるからな
野々宮
野々宮
ふーん…
行き倒れていた、玲央という
謎の青年を居候に迎えてから、
瀬尾は活き活きしているし
早く帰るようになった。
野々宮
野々宮
やっぱ嫁みたいなもんか?
瀬尾
瀬尾
んー…まあ家事は全般
やってくれるし、嫁みたい
だよな
“それでさ、この間また玲央が…
玲央と…玲央に…”
口を開けば玲央という二文字が
飛び出してくる。すっかりその
単語に飽きた野々宮は鞄を掴んで
早く外に出るよう瀬尾を促した。
野々宮
野々宮
お前、先に幸せになりやがって。玲央ってやつ、男だけど美人なんだろ?はー、嫁でもいたら俺もまた違ったんだろうな~
半ば冗談めかして言ったのだが、
瀬尾は真剣な面持ちで呟いた。
瀬尾
瀬尾
…そうだな。やっぱ同居って
いいよ
野々宮
野々宮
…は?
思わず野々宮は硬直した。
野々宮
野々宮
お前…まさか玲央とこのまま
なんかの関係とか待つつもりじゃないよな?
瀬尾
瀬尾
どういう意味だよ…
野々宮
野々宮
いやだから籍入れちゃったりとか
瀬尾
瀬尾
日本じゃ認められてねえだろ
野々宮
野々宮
え、そこ?
お前、そっちの気があったのか、
なんていう言葉を飲み込んで、
暗い空を見上げた。
野々宮
野々宮
はー…もうそろやばいかな俺も。可愛くて気立てが良くておとなしい嫁でも見つけっかなぁ
瀬尾
瀬尾
お前自覚ないのか…
社内じゃ人気だぞ
野々宮
野々宮
は、誰が?
瀬尾
瀬尾
な、営業部の野々宮さん
野々宮
野々宮
え、俺?
ホームに滑り込んだ電車に揺られて、
三駅ほど景色を流す。
瀬尾
瀬尾
まあ顔はいいからな。髪型なんとかしろ
野々宮
野々宮
仕方ねえだろ…ちっさい時からこれで切りそろえられてっから変えると違和感しかねえんだよ
やがて瀬尾の最寄駅に着いた。
瀬尾
瀬尾
じゃあな
野々宮
野々宮
おう。明日な
同僚の瀬尾は爽やかな男で、
女子社員にも人気がある。
一方、野々宮は目つきが鋭く
髪型が個性的なのでとっつきにくい
イメージがある。
野々宮
野々宮
はあ…
ため息を1つ、ついて次の駅で
降りる。歩いてすぐのアパートは
寂しそうに闇の中に佇んでいた。
野々宮
野々宮
ただいま
誰も返事するはずのない空間に
向かって声を投げる。
野々宮
野々宮
はー…疲れた疲れた
ジャケットを掛けて、冷蔵庫を
開ける。ビール缶1本と安いチーズ、
それからカップ麺。食卓に並んだ
食材は悲しくなるほど不健康だった。
ふと、窓が音を立てた。
不思議に思って見ていると、
次の瞬間窓が開け放たれた。
野々宮
野々宮
?!
カーテンがはためき、書類が
宙を舞う。
瞬き1つすると、そこには
黒いコートに身を包んだ銀髪の
青年が居た。

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