第2話

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2018/05/14 01:44
野々宮
野々宮
お、おま…ッ…ここ、5階…
すっかり腰が抜けた野々宮は、
椅子から転がり落ちた。
野々宮
野々宮
な…なんだお前?!
フランツ
フランツ
やあ。僕はフランツ
フランツと名乗った青年は
魅惑的な笑みをたたえて、
小さな唇を動かした。
フランツ
フランツ
突然だけど…僕、行くあてが
なくって。ここに住まわせてもらっていい?
野々宮
野々宮
は?え、え?
フランツ
フランツ
あーなるほどなるほど、
この食生活だと女はいないね。
アパートに住んでいるのを
見る限り、稼ぎはまずまず…
って感じかな
野々宮
野々宮
ちょっ、お前勝手に…
フランツはずかずかと部屋の中を
歩き回って観察している。
フランツ
フランツ
結論から言うと、お前は
二十代後半会社員。
独身、彼女なし。自炊はしない、稼ぎはまずまず。タバコは吸わない、酒は好き。こんなとこかな
野々宮
野々宮
ま、まあそうだけど…
フランツ
フランツ
もっと若くて可憐な女がよかったが…まあ、こうして会うのも何かの縁かな。ここはひとつ、よろしく
野々宮
野々宮
いやいやいや、ちょっとまて!
野々宮は思わず机を叩いた。
野々宮
野々宮
俺、いいなんて一言も言ってねえよ?!
フランツ
フランツ
え…流れ的にこのまま
居候させてよ
野々宮
野々宮
流れって何だよ?!
フランツ
フランツ
フランツは野々宮につかつかと歩み寄り、その華奢な身体から想像できないほどの力で押し倒した。
野々宮
野々宮
おま、何する…
フランツは白い手袋に包まれた
細い指で野々宮の首筋をなぞる。
フランツ
フランツ
ね…いいでしょう?ほら、
僕と、このまま…
野々宮
野々宮
は、は?何言って…
不敵に笑うフランツの口の端に、
きらりと光るものを野々宮は
見つけた。
野々宮
野々宮
?!お前、それ…
フランツ
フランツ
ふふっ。もう、遅いよ
野々宮のタートルネックのセーターの
襟を引きちぎって、その首元に
フランツの刃が突き刺さる。
野々宮
野々宮
!!…ッ
ぷつり、と皮膚の切れる音がした。
野々宮
野々宮
…ぁ、はぁッ…
ようやく解放されたときは、野々宮は
朧気に天井を見つめることしか
できなかった。
フランツ
フランツ
…ゴチソウサマ
野々宮
野々宮
お前…何、した
フランツ
フランツ
血吸った
けろっとした顔でフランツは言う。
フランツ
フランツ
僕はさ、吸血鬼なんだ。
だからちょーっと追われてて。
ね、匿って?
野々宮
野々宮
は?馬鹿、言うなよ…
フランツ
フランツ
いいじゃん。だって、
気持ちよかったでしょう?
僕に血を吸われるの
野々宮
野々宮
?!何を…
フランツ
フランツ
だってあんなに息荒げて、
ビクビク痙攣してたじゃない。
それに…
舌舐めずりをして、唇に付いた
血液を舐めとってからかうようにフランツは
言った。
フランツ
フランツ
もっと、って顔してる
野々宮
野々宮
何…
フランツ
フランツ
…おや、もうこんな時間。
人間は寝たほうがいいんじゃないかな。それじゃ、おやすみ
野々宮
野々宮
待っ…
野々宮の首筋の、傷跡にフランツが
触れると、野々宮の意識は遠のいて
そのうちに眠ってしまった。
フランツによって開け放たれた窓
から明るい光が差し込む刻になり、
野々宮は目を覚ました。
野々宮
野々宮
ん…ん〜…はッ、会社!
時計の針は無情にも10時を指していた。
野々宮
野々宮
やばい、会議…
ベッドから這い出した瞬間、
ぐらりと身体が揺れた。
野々宮
野々宮
…?!
フランツ
フランツ
おや、おはよう
野々宮
野々宮
お前、昨日俺に何した?!
会社、行かなきゃなんねえのに…
フランツ
フランツ
だから、血をちょっともらった
野々宮
野々宮
ぜってえちょっとじゃねえだろ!これ貧血だよ!
フランツ
フランツ
じゃあ電話入れて休めば?
野々宮
野々宮
言われなくてもそうするわ!
会社に電話をかけて、野々宮は
もう一度ベッドに倒れこんだ。
野々宮
野々宮
はぁ…。とりあえず、整理させてくれ。お前はフランツ。で…吸血鬼とか言ってたっけ?
フランツ
フランツ
ああ。正真正銘、吸血鬼さ。
容姿からもわかるだろう?
一般的に吸血鬼は浮世離れした
美しさを持つと言うからね
野々宮
野々宮
自分で言っちゃうのかよ…
確かに、フランツは美しい。
男の野々宮が惚れ惚れするほどに。
さらさらの銀髪。片方のみでも、
妖しく強い光を放つ翡翠色の目。
よく見ると、瞳は紅く燃え盛っている。
白い肌に小さな唇。まるで人形そのものだ。
野々宮
野々宮
…いや、でも信じらんねえな…
吸血鬼とか本当にいるわけ
ねえし…
フランツ
フランツ
しつっこいなぁ。そんなに
言うんだったら、証明して
やるよ
鏡を貸せ、というので洗面台に
連れて行った。
フランツ
フランツ
今、鏡には何が映っている?
野々宮
野々宮
え…?俺だけど
フランツ
フランツ
そうだろう。では、
僕が隣に行くと…
野々宮
野々宮
?!お前…
フランツ
フランツ
そう。吸血鬼は、
鏡に見せかけの姿が
映らない
野々宮は軽くフランツにパンチを
入れたが、鏡に映る野々宮は
何もない空間に向かってパンチを
繰り出している怪しい人だった。
野々宮
野々宮
…えー…
フランツ
フランツ
えーとはなんだよ
野々宮
野々宮
え、えー…信じらんねぇ…
フランツ
フランツ
別に信じてもらわなくても
結構だけど、僕にはご飯が
必要なんだよね。
てなわけで、君僕のご飯係ね!
野々宮
野々宮
あ"あ?!ご飯係だ?!
ふざけんな!!
フランツ
フランツ
いいじゃないの〜!
ね、名前なんていうの?
野々宮
野々宮
教えられっかよ…
フランツ
フランツ
へー、野々宮っていうの?
野々宮
野々宮
あ、ちょっ俺の名刺!
フランツ
フランツ
じゃ〜よろしくね、のの〜
フランツはまたニヒルに笑うのであった。

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