俺は、相談を終えて
新たな気持ちで外に出た。
早速彼女に会ってしまった。
彼女と一緒に、家に帰った。
フフッ、と少し笑って彼女が言った。
今日もテニスの練習はした。
だから、嘘ではない。
本当は、ほんの少ししかしていない。
でもいいんだ、今自分は
彼女と話している。
大好きな彼女と、一緒に帰っている。
以前よりも、
お互い興味のある話ができた。
好きな音楽の話、映画の話もした。
分かれ道で二人別れた。
彼女と一緒に迎える明日は
いつ来るのだろう。
近い未来なのか、遠い将来だろうか。
彼女が振り返って、帰ってしまう5秒前、
俺は君の手を掴…
めなかった。
どうしても、一歩外には出られなかった。
彼女をずっと、遠くから
見ていればよかった。
近づいたら、離れられないのに。
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久しぶりに、元気に話したかもしれない。
学園の人はみんな、
いろんなことを聞いてくるだけで
自分のことを話さないから、
ある時怖くなった。
でも、長谷川くんは違う。
聞いてくるし、話してくれる。
むしろ、答え続けてくれるのだから。
別れたあと、
「 え、君メッチャカワイイんだけど!
もしかして一人?ちょっと来てよ 」
「 本当だ!おいでよ、暇なら
付き合ってよ 」
「 まあまあ、大丈夫だから、ね?」
自分の出せる最大級で、
そう遠くないであろう長谷川くんに
届くように叫んだ。
「 ちょっとー、静かにしないと
もう夜だから 」
あっ……やっちゃった…
「 えっ、あっ… 」
「 なんだよ、彼氏かよ。
ミコトちゃん、一緒に来てくれない? 」
予想外に、駆けつけたのは倫也くんだった。
倫也くんにバレない程度の、
ありったけの眼力で、彼らを睨んだ。
「 …っ、もういいよ、行こうぜ 」
…意外とあっさりしてる。
はぁ、はぁ、と息を荒くして
長谷川くんが走ってきた。
倫也くんは、運がいい。
長谷川くんは、勘がいい。
そう思った。
二人には、本当は自分が自分で
やっつけそうだったことは言わなかった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!