橘さんは、倫也のことが
好きなんだろうと思った。
さらには、水沢の存在を
知らないのだろう。
この子の想いは、僕の想いに
似ている。
知りたくなかったことを、
突然聞かされるというのは
自分の中のなにかを壊されることなんだ。
だから、
小声で話しかけて、
その場から一緒に離れた。
婚約者だとわかってしまうのは…
なんて言えなかった。
自分が言ったことを
一瞬だけ、後悔した。
でももう遅い。
もともと諦めなければならない
相手なのだから。
鈴峰家の挨拶回りも
終わり、パーティーがお開きに
なった。
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倫也くんの家の車で、
家まで送ってもらった。
車は広いのに、二人で隣に座る
この距離感にドキドキした。
倫也くんが前から抱きついてきた。
そのまま、優しく落ち着いた
低音ボイスで話してきた。
顔が赤くなっていそうで、
逆に、このままでいてほしかった。
ここで伝えなくちゃ。
ずっと好きだった、
出会ったときからとても。
でも、自分には自信がない。
君の隣に立つ勇気、
君のそばに寄り添う情熱。
また、言えなかった。
出会った頃は、何度も言えた。
でも、離れたり、大人になると
恥ずかしくなった。
自分のネガティブさを
自覚して、言えなくなった。
一番信じてるこの人に、
私は気持ちを、伝えられない___。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!