ラブレター
私は送りたい相手がいる。
私は厳しい家庭で育った。
プレッシャーしか感じなくなった家。
海外出張で家帰ってこれない父親に、
とにかく厳しい母親。
それでも、愛情ぐらいは、
もらっていたと思う。
いつからだろうか。
たぶん、私が中学受験に失敗した時だ。
母親は私を見るたびにため息を吐くようになった。
最初の方は辛かったけど。
今じゃ、何も思わなくなった。
メールとか、電話とかじゃなく、
ラブレターを、送りたい理由は、
スマホを母親に見られるから。
気をつけていても、いつ見られるかわからない。
バレれば、家から追い出されるだろう。
いや、一生、閉じ込められるかもしれない。
私は今日も真面目な皮をかぶる。
自分を押し殺して。
誰かが見つけてくれるのを、
密かに期待しながら。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!