アパートの階段を下りると、あなたの姿が見えた。
泣いてるように見えるが、悲しそうではない。
一緒にいる男は、あなたの彼氏なのだろうか。
とりあえずあなたの名前を呼んでみる。
そう言って、満面の笑みで走ってくるあなたが好きだった。
昔から、ずっとずっと。
俺が辛かったときでも、あなたの笑顔を見ればすぐに立ち直った。
もちろん、兄妹としての「好き」だから。変なこと期待しないで。
あなたは一回立ち止まると、また俺のところに走ってきた。
そして俺に抱きつく。
俺があなたの背中を二回叩くと、あなたは頬にキスをしてくる。
これが俺たちの決まりだった。
アメリカで育っていたことも影響するが、これが信頼しあっている証ということもある。
あなたがそう呼んだ男は、すぐに走ってきてくれた。
顔は普通にかっこいい。足もまあまあ速いだろう。
ただ、足の筋肉のつき具合からすると、走るのではない運動をしてるはず。
でも、何よりその笑顔だった。
俺にしか笑顔や涙を見せてくれないあなたが、泣いた男だ。
ホソクの笑顔から滲み出る優しさは、本物だと信じれた。
あなたはまだ上手く笑えていないが、嬉しいとは思っている。
ホソクがいなくなると、あなたは俺に向き直った。
俺があなたに熱だと言いたくない理由。
あなたに心配をかけたくないのもそうだが、
何よりあなたに看病してもらいたくないからだ。
看病が下手とかそういうの問題じゃなくて、むしろ看病は上手だ。
だけど、ずっと俺につきっきりになるせいか、あなたも熱を出す。
大好きな妹が苦しんでいる様子を見たくないから、俺は言いたくないんだ。
俺にスクールバッグを押し付けてアパートに戻すと、
制服のまま、コンビニへ走っていった。
俺は素直に部屋に戻り、ベッドに横になる。
いつの間にか、深い深い眠りにおちていった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。