テオくんがいなくなる。
そんな、信じられない事を知って俺は頭がプチパニックになった。
テオくんが帰ってきたら聞いてみようかな。
どこかに行くの?俺のそばからいなくなるの?テオくんは消えちゃうの?
って。
…ううん
やっぱり、辞めておこう。
今までテオくんは俺のことを気遣って俺に言わないでくれてた。
その優しさを踏みにじりたくないという気持ちと、今の俺にはテオくんに伝えたい言葉をまとめられる余裕がないし、今はやめておこう。
勝手に溢れ出る涙を拭いていると、玄関から物音がした。
扉の開く音。
テオくんが帰ってきた音。
慌てて目に浮かんでいる涙を拭く。
手に持っていたテオくんの日記を元の場所に戻し、リビングに小走りで向かった。
やめてよ。そんな笑顔で俺を見ないでよ。
テオくんはもうそろそろ消えちゃうんでしょ?
なのにどうしてそんな笑顔でいられるの?
俺を悲しませたくないから?
無駄な心配なんてしなくていいのに。
その心配が、逆に悲しくなるじゃん。
俺は、生まれて初めて涙もろい俺の体質を恨んだ。
また溢れ出てきた涙は、俺の頬を伝う。
慌てて俺に近付いてきてくれたテオくんに、心配そうな顔で見つめられる。
ちゃんと喋られているかも分からない状況で、涙をぬぐいながら俺はいう。
ばか、お前のことだよ。
お前が消えちゃうからだよ。
気付けよ。
なんて言えるはずもなく、俺は無気力に首を横に振った。
肝心な時に言いたいことを言えないのが俺。
テオくんみたいに、何でも正直に言える人間になりたい。
あ、人間じゃなかった。
そう。テオくんは吸血鬼。
俺とは違う世界の生物で、人間とは程遠い生物。
俺は初めてテオくんと同じ人間じゃないことに胸が痛んだ。
もし、テオくんが人間だったら。
俺と同じ世界の人間だったら。
俺にも触れてくれて、消えないでずっとずっとそばにいてくれたかな?
ああ、やっぱり俺
テオくんが好きなんだ。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。