-(なまえ:奈央)side-
食堂で侑たちと別れ、その後明日の練習はリハーサルや最後の練習のため
参加が難しいという事についてを北さんに改めて謝り
ついでに3年生たちの分のチケットを渡して
一度部屋に戻った
今回、このような大規模なフェスに参加させてもらえることになった為
流石に既存の曲だけで挑むわけにもいかず
演奏する予定の3曲中、ラスト一曲はオリジナルのものを持っていこうという話になり
折角ならそこで初めてのチャレンジでもやってみるかという話になった
それは、バンド内で楽器シャッフルをすることである
吹部で何度かドラムを担当したこともあるボーカルの美琴が、ラストではドラムへ
ギターもベースも弾ける莉は昔やっていたというキーボードへ
伶奈は莉に借りて軽く齧っていたというベースへ
私は昔伶奈と一緒にやっていたギターとついでにボーカルを担当することになった
勿論所々全員コーラスもある
これは曲を作る際全員一致で決まった
“コール&レスポンス“の部分だ
そんな明日のLIVEのことを考えながら、一人外で自主練をしていた
ジャンジャカジャンジャ♪
ジャンジャカジャンジャ♪
____♪(ヘッドホンから流れる音)
_____♪
____♪
ジャーン
この曲の作詞は私が担当した
当初はメンバー全員で言葉を集めてきて
"それっぽい"盛り上がる曲を作ろうと考えていたのだが
〜回想〜
ーーーーーーーーーーーーーー
ということがあり、当初の予定から変更して
私の今の心情、考えていることなどをとりあえず書き起こして客観的になるよう整理していくと
気づけば"盛り上がる曲"というよりはどちらかというと"語り調"の曲になってしまっていた
そのため歌詞とは裏腹に曲調はアップテンポにしてある
-LIME-ーーーーーーー
ーーーーーーーーーー
気づけば私は、玄関を出たとこのベンチで
倫が起こしに来てくれることを期待して
中に入る前に眠ってしまった
-角名side-
ー部屋を出る前ー
ーーーーーーーーーー
いつから(なまえ:奈央)に対して、治たちと同じ感情を抱いていたのかは分からない
高校で再会してからか、もしくは大分前からだったか…
そんなものどちらでもいいが
相手が"他人に対して臆病なあの幼馴染"でなければ
俺もここまで苦労はしない
(なまえ:奈央)は他人に対して好き嫌いが物凄くはっきりしている
悪く言えば気持ちのメリハリが機械並みに凄いのだ
一度"嫌い"と認識してしまった相手の事は、以後何があってもその認識が覆ることはない
それは昔からだったが、今もなお変わっていないようで。
加えて過去に色々あったせいで
人を信じることすら簡単にはしなくなっている
自分がどれだけ周囲とは違って、信頼されて気を許されていると分かっていても
それは俺が(なまえ:奈央)にとって昔と変わらない"幼馴染"であるからで
もしも俺がアイツにそれ以上の感情を抱いているということを
いつからか"幼馴染"ではなく"異性として"みるようになっていたと言ったとしたら
変化を嫌う(なまえ:奈央)にとっては嫌悪してしまうであろう感情であって
言ってしまったらもう二度と
いつもの"幼馴染"には戻れない気がして…
そんなの事を考えながら、今まさに自分を悩ませていた人物と合流するため
玄関に向かっていたのだが…
LIMEが来てからすぐに部屋を出てきたため
そこまで時間は掛かっていないはずだが、そこには誰もいなかった
向こうからわざわざ場所を指定してきたため
てっきり先にいるのかと思っていたのだが…
今の時刻は21時。就寝時間まであと一時はある
近くのコンビニといっても、この時間だ
流石に一人で出歩かれるのは困る
そう思い最悪のことも想定して外へ出ると
すぐ横にあるベンチに見慣れたギターケースが見えた
見慣れたギターケースが見えた方へ近寄ると、そこにはやはり(なまえ:奈央)がいて
明日のLIVEの自主練でもしてたのか、ギターを抱えて薄いTシャツ一枚でベンチに座って眠っていた(なまえ:奈央)に
自分のジャージを掛けてやった
今の自分にとって、このある意味"絶対的信頼"の壁は
邪魔以外の何物でもない
今、この瞬間だけでいい
忘れてもらっても構わない
そう言って、俺は今もなお自分の隣で無防備に眠り続けるソイツの唇にそっと触れた
できることなら、このまま目覚めないで欲しい
目が覚めたらいつも通りの"幼馴染"でいたいから
もう片方の手を片耳に当てながら
周囲の音を閉ざすように触れていた(なまえ:奈央)の唇にキスをした
目が覚めたのと同時に俺の名を叫ぼうと
口を開けた(なまえ:奈央)の口に舌を入れた
(なまえ:奈央)が耳を触られるのが弱いことは
多分、俺しか知らない弱点だろう..
同じ幼馴染である伶奈ですら、恐らく知らない弱点..
それを知っていて、わざと耳に触れていた
今だけでいいから
たとえなかったことにされてもいいから
今だけは、俺のことをみてほしくて
(なまえ:奈央)が今度こそ俺の名をはっきりと呼び
その声に驚き、(なまえ:奈央)の事をよくみると
少しだけ怯た表情をして
少しだけ、震えていた
あぁ。やってしまった…
こうなることが分かっていたから嫌だったのに
分かっていたくせに、あまりに"信頼"されてしまっているからか
治や赤木さんのことがあったからか
その"信頼"に耐えれなくなってしまった
ギュ
言葉に困っているのか、何も発さなくなった(なまえ:奈央)に
まるで肯定されているかのように感じて怖くなり
俺は情けなく懇願するかのように(なまえ:奈央)に抱きつくしかなかった
今はそれしか、こいつをとどめておく方法を知らない…
気持ちを伝えないままでいるということより
この気持ちを忘れろと言われることよりも
そんなのは多分無理だけど
けど俺は
この関係が崩れてしまう方が怖いから
ほんとにコイツの切り替えの速さにはいつになっても敵わない
でもどこか抜けているとこもあって
そんなこいつだから、俺はいつからか守りたいと思うようになっていたのだろうか
どちらにせよ
出会ってくれて
前を歩いていた(なまえ:奈央)が
そういつものように俺の名を呼んで立ち止まった
そうやってお前が、静かに笑って言うから
何故かもう本当に"幼馴染"以外にはなれないんだと突き付けられているようで
俺だけ辛くて…
でもいつも通り"幼馴染"ではいられるということに安心している自分もいて…
以前『何故そんなに自分のことが分かるのか?』と聞かれた時のように
そう自分に言い聞かせるように言った
そして同時に
これからも、過保護な"幼馴染"として
俺はコイツを守りたいと思った
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。