-あなたの下の名前side-
案の定、あの二人は先に治を狙いにいったようで、治も面倒事を避けるためかそこまで抵抗せずあえてあっさりやられたんだろう
どこにいる、とまでは言ってなかったがまだフィールド内に隠れているのは事実だ。もとよりあちらもゾンビをするつもりならこれくらいは許されるだろう
いくら身のこなしや武器の扱い、戦略を立てる面では劣らなくとも、男と女では力の差は歴然だ。
それくらい、私も過去の経験から学んだのだ。いざとなったら…治に助けてもらうしかない
あの二人は恐らく、前に戦ったチームのどこかの知り合いか何かだろう。治がいたのは計算外、私個人を殺るのが目的なんだろうが…
サササッ
パンッパンッ
危なっ…この感じ…ショットガンか..?にしても…
パンッ
パンッ
今のは確実に当てたはずだ。これはもう確定だろう…面倒臭いな..
チャキッ
..それを知っているから何だというのだ。こっちのほうが身軽で、すぐに終わらせられる上圧で脅せるから都合が良いのだ
ゾンビなんて不届き者、二度とフィールドに顔を出せないようその行為をしたことを後悔させてやる
サササッ
音がした方、確実に気配を感じたほうに向けて数発撃ったものの、
後ろから来たそいつは見事に全て受けゾンビ行為をしながらこちらに迫ってきた。咄嗟に繰り出した回し蹴りをも避けられ
しまいには振り上げた脚を片腕で受け止められてしまった
バタンッ
は…?
気づけば背にはじわりと感じる地面の冷たさ。けど武器を取られたわけではない、勝機はある…こいつらが”ゾンビ”でさえなければ
『あいつら、何か企んどるで…』
感情に、飲まれるな。あくまで”冷静に”…平静を…保て..
プツッ
プツッ
落ち着け…これだから自分が"女"だとバレるのは嫌なのだ…
ここでは性別なんか関係なかったはずなのに…どんな屈強なおっさんよりも私のほうが強かった
前にゾンビ共にリンチにされかけた時も、団長が駆けつけるまで半数は自分が相手をした
怖さなんか…フィールド外に置いてゲームに挑んでいるはずだ。それなのに…重なる..
『ええ子やなぁ?(ニヤッ』
サササッ
『何かあったら叫ぶんやで…』
っ…!?そうだ、治っ…どこでもいい、今は…出せる限りの声で思いきり…
ダダダダダダッ
ギュッ
ダダダダダダッ
『感情に飲まれるならあくまで、"冷酷に"』
あぁ…そういうことか。これは治の.."殺意"だ
ガチャッ
それからは治の一方的な攻撃によりあっという間に決着がつき
残弾もなくなり抵抗するすべをなくしてしかたなく負けを認めたのか、私達はそのままフィールドの外へと向かった
-フィールド外-
こいつ等…全く反省の色が伺えない。むしろ自分たちがしたことの何が悪いのかすら分かっていない。
ほんのでき心…きっかけはそうだったにしろ許される話ではない
グイッ
侑の..匂い…。そうだ…もうここはフィールド外。みんなも居る..
侑が…居る。気を張る必要は、ない
そう思うと安心感からか急に足の力が抜けて、駆け付けたと同時に自分を引き寄せるようにした侑の方へもたれ掛かってしまった
気づけば全員がその場に駆けつけていて、次から次へと口を開けば安否確認と、何があったのかと言う事がそれぞれからなされた
ゲームを見ていた人が誰かしら団長のとこに呼びに行ったか何かしたのか..
パンッ
パンッ
自分に向けられた殺意…自分一人で片を付ける事ができなかった。
いつもならできたはずなのに、本当に…
ガシッ
確かにあの時…風で葉が揺れただけなのかもしれないが確かに近くに治がいる気がした
何故か、そう確信していた。だから..信じて言われた通り叫んだ。ただの恐怖心からの焦りと言われればそうかもしれないが…
大丈夫…何か、話したのだろうか。けどどのみち返答は出さなければならない
約束は、約束だし…負けたのは事実だから。
参謀…団長にこう呼ばれるのも、この感じも…これで最後になってしまうと思うと
嫌だなぁ…初めて信頼や尊敬が出来た大人なのに…
初めて自分に…"居場所"を与えてくれた、大切な場所なのに…離れたくない
初めて自分に与えられた、"自分にしかできない役割"だった
わかってる、自分じゃなくても団長がいる。団長も団長と呼ばれる所以が確かにある。
私一人抜けたくらいで駄目になるチーム何かじゃない。チームの頭は団長だ。自分の代わりくらい、いくらでも居る
それでもっ…
何も、変わらない…。
もしかしたら私は…侑にどれだけ自分が本気でサバゲーに向き合っているかを認めてもらうよりも、
暗にサバゲーをやめろと言われていることよりも…団長に、
この人に、たとえそうなったとしても"変わらない"と、"そういった"言葉が欲しかったのかもしれない
団長のその言葉に、心にかかっていたモヤが一気に晴れた気がした
"頼る"ことと、"守られる"ことは別物なのだろうか?前にトラックに引かれそうになったときのあれは…確かに"守られた"な?
あれがそうなら…
-侑side-
パンッ
パンッ
ダダダダダダッ
バサバサッ🕊
パンッ
パンッ
まさか北さんが着いてきてくれるとは思っとらんかったけど…
ーーーーーーーーーーーーーー
~回想~
は…?何言うとんの、こいつ…。サム、お前さっきされる前に止めに入ったって…
ドンッ
ふざけんなや…サムとかスナならまだしも、他のやつに触られるとか…ほんまに無理や
人のもん汚すなや、屑が
あぁもう…こいつら殺らんと気ぃ済まん..止めんといてな、北さん
パンッ
パンッ
そうや、ほんでそのまま…ってえっ!?え、ちょっ…2対2っ!?それって…
というか北さん、ライフルやなくてハンドガン何やな…?
北さんがいつも言っている"ちゃんとやる"という言葉..
絶対今のは違う意味での殺るやった気ぃするんやけど…
味方ならこの人ほど心強い人は居らんなっ
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-現在-
パンッ
パンッ
何やこいつ…さっきから何考えとるか分からへん
団長さんの声…そういや出禁にするとかなんとか言っとったし、それ言いに来たんか?
だとしたらなにがそんなおもろいんや。
ドンッ
なんでっあいつほんま、アホやろっ
初めてこいつが…野生児で良かったと思ってしまったかもしれない…
あんなん普通、気付かへんやろ…慣れって恐ろしいもんやな…
それも"殺意"に対する慣れとか…
パンッ
パンッ
パンッ
パンッ
知らないって…最悪やな。知ってたらわざわざあいつにゾンビしてまで挑もうとか思わんやろ…
他と変わらん…"普通の女の子"として…
いや…そうやけど少しちゃうな
-あなたの下の名前side-
パンッ
パンッ
あぁ…もう脅しでわざとギリギリ狙うのも飽きてきた…
シャキッ
グイッ
バシッ
どこがそんなことないねん。アホかこいつは
タッタッタッタッ
何か前にも似たようなことあったな?こいつに寄ってくるやつ皆同じような雑魚ばっかなんに、
何でいっつもこんな面倒な事になるんや..全く
ギュッ
なっ…何や、どういうことや…俺…なんかしたんかな…
こいつから引っ付いてくるなんて、珍しいにも程があるやろっ…一周回って何か…怖い
いや…可愛いんやけど…何?あかん…分からへん、
は…?え…何?ホンマにわからへんっ
えぇ…そんな、置いてかんでもええやろ…。そして何でこいつはずっと引っ付いてるんや..
え…って、いやそれこっちのセリフやっ!何やっ何が目的やっ…
ギュ~
いや…なんで離れようとすんねん、それはそれで嫌や何か勿体ない…
"そういう"..?そういうって…そういうってことでええの?
〜っ何か違う意味で殺られる…
実質辞めろ言うようなもんやけど
わかってたけどなぁ…これ言うたらこうなるって…けど泣くほど嫌なんか?けど約束は約束やからな、これでも妥協したほうなんやし
お前から大好きなサバゲー取り上げるみたいで悪いけど、許してや
ポンッポンッ
スナが言ってた"いじける"て…もう妥協策言うても何してもこうなるやんか。
玩具取り上げられた子どもかいな…電車ごっこみたいになっとるやん..
普段と逆やな…俺もしかしてぱっと見普段こんななん、?…気ぃつけよ…
スナから言われた苦肉の妥協策を伝えると、見事にいじけてしまい引っ付いた状態から動かなくなったそいつを引っ付けた状態のまま
フィールド外の、皆がいるところへと向かうことにした
俺、今ホンマにこいつ引っ付けた状態で歩いとる?軽すぎん…?ホンマに居る…?
そう不安に思い腰に巻き付いているはずのそいつの腕を掴もうと腰に手を持っていった
電車ごっこの様に歩いていては一向に辿り着けないため背中に掛けていた自分の銃を前にして
引っ付いたそいつをそのまま勢いに任せて背負った
よし、これで歩けるってもんや。けど…
メインを持っていたならまだもう少し重量は感じたのだろうが、ナイフとハンドガンしか持っていない為特段重みが変わることもなく…
何かあるやろ…あれ…天使の羽〜みたいなランドセルのCM。あれちゃうよな?俺今ランドセル背負ったんとちゃう?
サバゲー離れたら…少しは重くなるんか?それなら一石二鳥やな…
怖すぎやもん、あんだけ食ってて全部消費しとるって…色んな意味で結果オーライやな…
ホンマに子どもやん…向こうついたら起きてもらわな俺着替えれんのやけど
-集合地-
戻ってきたのはええんやけど…
ほんまにずっと寝とるんやけど..というかむしろガチ寝し始めたやん…
いや…どないしよ。
もうみんな着替えとるし、あと俺だけやん。というか呑気に寝とるけどこいつは着替えなくてええんか?
確かに…私物ちゃぁ私物やけど…
そんなんこいつが野生児やなくてもそうやろ..。今更何も驚かんわ。しょっちゅうジャージ取られるくらいやし
もう分かりやすいくらいに俺の匂い好きやろこいつ…。いや今それはどうでもええねん
あぁぁぁぁっ!?何しとるんやっ無駄に刺激すんなやっ!!お、起きるってっ!こいつっ寝起きごっつ悪いんやぞっ!!
せめて北さんかスナにっ
タッタッタッタッ
流石にあいつも起きて最初に目が入るのが北さんなら…大丈夫やろ。
ゴチンッ
プツッ
プツッ
バタバタバタバタッ
次に再会するその時まで…暫くのサヨウナラだ
絶対予定空けとけよ、団長?
暫くのサヨウナラ、私最初の居場所
大好きな居場所をくれた…憧れの人
また会う日まで。それはきっと…
バレー界最強双子が繋いでくれるだろうから…
-end-
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。