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第6話

KEYTALK 八木優樹





もう丑三つ時は過ぎて
辺りも少し明るくなってきた
早朝から鳴り響く新聞配達のバイクの音と
部屋に響く機械音だけが
私の耳に届く

社会人にもなって
仕事にも慣れてきて
付き合っていた彼とは3年を迎えようとしていた昨日
あっさりと振られた
なんとなく結婚するんだと思っていた
彼が私の運命の人なんだと思っていた
『他に、好きな人が出来た』
そっか、今までありがとう
こんな会話をした事は薄らと覚えている
その場ではあまり理解出来ていなくて
二つ返事で承諾した別れ。
ねぇ、もう私三十路だよ
これからどうしようか
帰路についてからとめどなく溢れた涙
拭ってくれる人も励ましてくれる人もいなくて
肌寒い春の夜明け
ソファで身を縮める

運が良いのか悪いのか
今日は休日で
彼を失った私にはなんの用事もない
このままずっと泣いていようか
ご飯さえ食べる気にもならない

何もしないまま刻々と時間だけが過ぎた
気が付けば時計は10時前
ああ、もうこんな時間か
昨日の仕事帰りのままの服装
流石に着替えよう、と立ち上がった




_____ピンポーン


無機質な部屋にインターホンの音

知り合い、、?
否、連絡してないのに来るなんて
そんな非常識な友達を持った覚えはない
宅配か、とモニターを写すと
怪しい男が1人



貴方
貴方
…どちら様ですか


久しぶりに声を発すると
今更自分の声が枯れていたことに気付いた
カッスカスのままで声を掛ける

八木優樹
八木優樹
えっ、あなた…?
どうしたのその声


なんだ、優樹か
いやいや、なんだ、じゃないよ私
居たわ、1人。
非常識な友達
KEYTALKのドラマー八木優樹
実は高校の時からの腐れ縁
偶に私の家に上がり込んでくる非常識男



貴方
貴方
まぁそれはおいといて、
どうしたの
八木優樹
八木優樹
え、ああ、なんとなく来た
貴方
貴方
なんそれ、
今…
八木優樹
八木優樹
あ、忙しかった?
貴方
貴方
…ううん、上がってきて



そう言うとマンションのオートロックを解除する
部屋の鍵は…掛けてない
昨日掛け忘れてそのままだった
まぁ良い
どうせマンションだし


八木優樹
八木優樹
おっじゃましまーす



こいつ、仮にも女の子の部屋にずかずかと、、
私じゃなかったらぶん殴られてんぞ


八木優樹
八木優樹
あれ、なんでスーツ?


リビングに入って私を見るなり
1番痛い所を突かれる
ああ、説明すんの面倒くさ



貴方
貴方
…とりあえず座れば
八木優樹
八木優樹
うん、ありがと



何を飲みたいか聞けば
ミルクティー!なんて耳を劈く
そんなのないよと言えば
しゅんとして、じゃあ珈琲でいいよ
って、私はカフェの定員かよ
心の中で一通り突っ込んで
ホット珈琲を入れる
インスタントの中でもこの珈琲が1番好き
優樹のには砂糖とミルクを
私のには砂糖だけを
軽く掻き混ぜてソファに運ぶ


貴方
貴方
ん、
八木優樹
八木優樹
ありがと〜
八木優樹
八木優樹
あ、そうそう
この前あなたが見たがってた映画
借りてきたから一緒に見よ
貴方
貴方
お、ありがと
じゃあ先に着替えてくる
八木優樹
八木優樹
うん、準備しとく



別室で部屋着に着替える
あの映画、実はもう見てる
元彼と。
折角持ってきてくれたんだもん
もう1回ちゃんと見よう。
そう言えばこの前キャラメルポップコーンを買った
それも開けちゃおうか
いっその事部屋も暗くして映画みたいにしよう


貴方
貴方
ねぇ優樹


早速リビングへ戻って声を掛けてみる

八木優樹
八木優樹
ん?
貴方
貴方
キャラメルポップコーン食べる?
八木優樹
八木優樹
え!食べる!
部屋も暗くしちゃおうよ!
貴方
貴方
ふふ、同じこと考えてた


うわあほんとの映画館みたーい!
って、きらきらした笑顔で言うもんだから
こっちまで楽しくなる
さっきまでの事が嘘みたいに薄れる


準備が終わって
2人肩を並べてソファに腰かける
無機質だった部屋に
優樹の声。匂い。
いつもなら意識しない事に敏感になる
映画は海外の恋愛モノ
初めて見た時は良く理解出来なかった
今なら、違う
主人公の気持ちも相手の気持ちも
全てがよく分かる


どうして私は、


____泣いているんだろう。










途中から涙止まらなくて
声は出ないものの、
ただ頬を伝い落ちていく
…感動、しているんだろうか
この映画に感情移入でもしたか
そう問われれば、違うのかもしれない
でも、何故泣いているのか
と問われれば私にも分からない



八木優樹
八木優樹
…あなた?
感動、してるの?

優樹も気が付いたのか
私の顔を覗き込む

優樹の問いに私は、
力強く首を横に振った



八木優樹
八木優樹
じゃあ、どうして…
貴方
貴方
…わかんない



優樹に言いたくない訳じゃない
頼れない訳じゃない
昨日の事なら言えばいい。
のに、何故か言えない

ただ、誰かに愛されたかった
愛されればそれで良かった
愛されて、幸せな家庭を作って、
日常をより幸せに。

そう、生きたかった





八木優樹
八木優樹
…良いよ、
貴方
貴方
え?
八木優樹
八木優樹
俺の前ではいっぱい泣いて良いよ



優樹がそんなこと言うなんて柄じゃない
いつもなら優樹の方が泣き虫なのに
そんな悲しそうな顔で
私を甘やかさないでよ、。
今優しくされたら絶対漬け込んじゃう
優樹だけは、
悲しませたくないのに



貴方
貴方
…ゆうき、っ、



そんな事を一通り考えた
でも、今の私は不安定過ぎる
もう駄目だ。


優樹を利用した
優しさに漬け込んで
溺れて
優樹の好意を
黒く染めた


…ごめん、



そっと、抱きしめてくれた
私を。その逞しい腕で
優樹の胸で泣いた
声が出なくなるまで
永遠泣き叫んだ
昨日の事を説明する訳でもなく、
ただ、泣くことしか出来なかった



八木優樹
八木優樹
…俺じゃ、頼りないかな
八木優樹
八木優樹
ずっとあなたの事好きなんだけど


知っていた
優樹が好意を寄せて来ている事も
高校の時から彼女が居ないことも
私が元彼と付き合っていたのを
よく思っていなかった事も
全部、ぜんぶ


貴方
貴方
…優樹
貴方
貴方
好き




ごめんね、


本当は優樹の事、友達としか見てないよ
でも、好き


愛してくれてありがとう。