バイキング会場のあらゆるところに置かれた、
円形テーブルの中央に飾られている花瓶を示す。
ガサガサ(持っていたカバンから、手袋を取り出す)
亡くなってしまった子の母親が、口を開いた。
まるで、僕を…"化け物"を見るような目で見ている。
カタカタと、身体が震える。
僕は存外、威圧的な言葉や雰囲気が無理らしい。
…まぁ、仕方ないのかもしれないけれど。
亡くなった子を抱き締めて、
涙を流している母親に…
思わず、声をかけた。
僕は、スッと頭を下げた。
あぁ、そうか。
この人は本気で…悲しんでいるんだ。
自分の子が死んでしまって、苦しくて、悲しくて…
優しい親に、愛されてみたかったな…
深夜2時、ある海岸沿いを1人の少女が歩いている。
深い青色のシャツと白いスカート、
左手には"ディアスシア"の花束を握って。
"パール色"の髪を風に揺らし、
満点の星空を閉じ込めたような瞳には、
"後悔"と"懺悔"の感情が、時折見え隠れしている。
靴を脱ぎ、荒立つ海の中へ入る。
前世の頃から、温かいお湯に入った事がない。
転生した今でも、お風呂は冷水のまま。
…お湯のお風呂に入るのが、怖いから。
どんどん、海の中へ入って行く。
…ふと、昔のことを思い出した。
それが、今はどうだろう?
殴られることも、蹴られることも…
親のサンドバッグになることも無い。
殴られないこと?蹴られないこと?
理不尽な痛みに耐える必要がない生活?
ポロポロと、涙が零れた。
頬を流れて、海に落ちて波紋を作る。
その波紋すら、荒立つ波に消されていった。
ディアスシアの花を、水面に浮かべる。
…これが、僕に出来る最大限の弔い。
君は、"幸せ"が分かる人だろうから。
何が幸せなのか、分からない。
どうやったら"幸せ"になれるのかすら。
…そもそも、"化け物"が"幸せ"になれるの?
自嘲気味に笑った。
もう、全てを放って逃げてしまいたい。
このまま海の中へ沈んだら、"シアワセ"…?
ふと、名前を呼ばれて…
僕は唇を噛んだまま、振り向いた。
ディアスシアの花言葉は、「私を許して」
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。