この世は残酷なものだ。
ある日、じんたんは魔法をかけられた。
その魔法ってのが残酷なんだ。
それは「愛している人」そう、俺に関すること。
魔法をかけられた人は、今の恋人に顔を見られてはいけない。
要するに、じんたんは恋人である俺に顔を見られてはいけないってこと。
俺もじんたんの顔を見てはいけない。
それに、じんたんの姿自体の記憶も消される。
しかも俺だけ。
もし見たら、じんたんはこの世から消える。
それもじんたんがこの世にいた " 存在 " が。
じんたんは俺の顔を見てもいいんだけど、
俺はダメなんだ。
だからいつも俺らの間にはカーテンがある。
じんたんの影が見える。
じんたんとの思い出も、
記憶も、
全て覚えてるのに、
顔だけ思い出せない。
じんたんはどんな顔だったんだ?
可愛い顔なのかな、
カッコいい顔なのかな、
つり目かな、たれ目かな。
じんたんの腕は白くて細い。
女の子みたい。
カーテン越しのじんたんの影でわかった、メガネをかけている。
伊達メガネなんだって。
髪型はツンツンのうにヘアー。
毎日セットしてるんだって、大変そう。
俺より背が低くて全体的にほっそり。
彼女みたい。
でも、
肝心な顔がわからない。
じんたん自身も言っちゃいけないんだって。
顔のパーツのヒントを。
二重だとか、つり目だとか、鼻の形はどんなだ〜とか。
それでも消えちゃうらしい。
なんて神様は残酷なんだろう。
俺はじんたんに言っちゃいけないことを言ってしまった。
あれは、雨が降ってた日の午後だっけ?
言ってしまった。
俺らにとっての禁句を。
言ったらダメなのに……
じんたんの声は震えていた。
こんな時、
いつもなら俺が涙をふいてあげたのに。
大丈夫って抱きしめたのに。
じんたんが悲しいこと言うから、
俺は明るいことを言った。
じんたん、
悲しいこと言うなよ。
じんたんは泣きながら言った。
ほぼ叫んでるのに近い。
ふたりは打ち合わせもなにもないのに、
いつでも息ぴったりだったね。
今だってそう。
心は通じてるんだね。
嬉しいよ。
こんなに苦しめられるなんて………
どんなにいいものか。
じんたん何言ってるの?
そんなの、俺が耐えられないよ。
じんたんの存在がなくなるなんて、やだよ。
じんたんお願いやめて。
開けないで。
ダメだって。
しゃっ
カーテンの開く音が部屋に響いた。
聞きたくない音だ。
目の前には見知らぬ男、いや、じんたんが立っていた。
じんたんの声だ。
この人がじんたんだ。
じんたんは俺に抱きついてきた。
消えちゃうのに、
俺らは笑ってた。
そう言いながら俺はじんたんの涙をふいた。
((chu
完全に忘れてた。
お願いまだ消えないで。
((chu
最後の最後のキスは甘くてじんたんの味がした。
さよなら、俺の愛しの────
…………誰と話してたんだ?俺。
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編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。