「あのさ」でさえ言えなかった。
嫌われるのが悲しいから、
その言葉を飲み込んだ。
そいつらが後悔としてずっと後に着いてきた。
今だって着いてきてる。
苛立って投げたしてしまった言葉。
これは後悔でも帰ってくることはなかった。
言葉にすると嘘くさくなって、
じんたんの好きとは違うから伝わらない。
形にするとあやふやになって、
やっぱり手作りキーホルダーなんて重いよな……
そのせいで丁度いいものがひとつもなくてさ、
いつから俺は不甲斐なくなったんだよ。
明日になったら、
この日ともバイバイしなくちゃいけないんだ。
色がなくなっていつか灰になってしまいそうなまどろむ街を、
じんたんと共に置いて行く。
じんたんにちゃんと手紙を書くために、
色んなことを思い出した。
てみじウィークのこと、
一万円企画のこと、
ディズニーとかりくくんとのコラボ。
じんたんとふたりだけで暮らしてたスカイハウスでの日常。
じんたんとならどんな思い出も美しいけれど、
ひとつも書くことなどなくなった。
でもどうしてか、言葉にしたくなって。
なんでだろうね。
鉛みたいな嘘に変えてまで
行方のない鳥になってまで、
最後までじんたんを汚してしまうの?
明日になれば、
今日の俺らはなかったかのように死んでしまう。
じんたん、
もし聞こえてたなら、
今の話など忘れてくれ。
ほんとは俺が飛ぶはずの気球なのに、
落ちていく。
ほんとはじんたんが地を走るカリブーなのに、
飛んでいる。
真逆じゃないか。
足のない、青像のようになってしまったじんたんと、
踊りを踊ってる閑古鳥のような俺。
ほんとは俺が足を失い、
じんたんが踊るはずだった。
どの番組に変えても忙しく鳴るニュース。
この街の未来が、
この先の街には住めなくなるのかな。
みんなは泣いてるようにも歌を歌っていた。
神に願うように、
祈るように。
『助けてください』『お願いします』『守ってください』
同じような言葉がたくさん聞こえてきた。
俺は、
俺はなにをすればいい?
いつだって役に立たなかった邪魔しかしない俺は………
そんな俺を静かに兎が見ていた。
俺はじんたんにどんな気持ちを抱こうと、
このどうにもならない気持ちのままでも、
じんたんと一緒にいつまでも歩きたいんだ。
明日になったらさ、
今日の日からバイバイしなきゃいけない。
いつもならすんなり出来るのに。
いつもは綺麗な街並みが、
モノクロ写真みたいに色が無くて灰のようだ。
いや、灰になりそうな街。
そんなまどろむ街を
お別れをしなきゃいけないじんたんと共に置いて行く。
答えてくれないじんたんに言葉を吐き、
じんたんの冷たくなった手に触れ、
そう願った。
そんな奇跡なんて起こらないのに。
こんな時にさえ、
俺は気持ちを伝えれないんだ。
いざじんたんを目の前にすると言えなくなってしまう。
たとえ動かなくても。
愛してるよじんたん
愛してるよじんたん────
じんたんの前だと心の中でしか呟けない。
これだけが精一杯の俺からの愛だ。
ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー
じんたんは死んでいる。
じんたんが喋っている場面は全て過去の話。
テオくんは頑張ってじんたんとの別れをしようとしている。
でもなかなかできない。
テオくんが途中、吹き出しで「……っ」とか言ってたのは、
じんたんのお葬式に耐えれずに逃げ出したってことです。
汚してしまう、
いきなりじんたんの相方がお葬式を逃げ出したらざわめきますよね。
行方のない鳥、
これはテオくんのこと。
お葬式を抜け出してきたけど、この後どうすればいい?って感じです。
手紙を書かない理由は、
ちゃんと言葉で伝えたかったから。
じんたんは事故で死んだ。
足が吹き飛んだ。
ほんとはテオくんが気球でじんたんがカリブーなのに、
じんたんがテオくんを助けたのか
じんたんはカリブーなのに空を飛んだ。
子供がいなくなったらその街では未来で暮らせなくなる、
みんなは歌うのにテオくんは何も出来ない。
それを見ていた兎、
これはみんなわかるように、じんたんです。
箱に入ったじんたんに「寂しい」とか手に触れることは出来るのに、
想いを伝えることは出来なかった。
「さよなら」
これは精一杯のテオくんからの愛。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!