俺はスカイハウスの窓を開けた。
小さな風が吹いてきた。
春だなぁ。
その風に乗って桜の花びらが、
伽藍とした静かな部屋に入ってきた。
なんだかまるで、
せめてものテオくんからのお詫びみたいな。
そう思うと少し笑って、
その後泣いた。
テオくんはそう言った。
そう言ったよね。
ねえ………
そう言ってもテオくんは、
なんて言うからさ。
エイプリルフールだったから雨ってこと嘘かと思ったの?
俺、柄に似合わないけど、
勇気ってやつを心の奥の方から引っ張り出してきた。
のに。
嗚呼、
最後に笑ってさよならなんて、
ずるいじゃん。
ねえ、ねえ…………
スカイハウスの窓から叫んでやった。
周りの目なんか気にしてない。
なに、死んでんだよ…………
なんて、今じゃもう遅い俺の我儘だ。
神に何度願ったら叶えてくれる?
こんな時、
もしもテオくんが居たら、
なんて言って頭を撫でてくれる、
そんなテオくんが大好きでした。
ごめんね、今更何もかも届かないけどさ。
これも全部、
エイプリルフールの悪い嘘だったらな、なんてね。
今日はなんだか、
視界に入るもの全てが俺の胸を握り潰してきて、
嫌になる。
テオくんとの思い出でさえ、
俺の好きなチョコでさえ、
壁に飾ってあるイラストや写真でさえ、
全て全て。
そうだ、
テオくんの部屋を整理してあげなきゃ。
そう思ってテオくんの部屋へ入った。
優しい、匂いがした。
なんだかテオくんが居そうな、
後ろを振り返ると居そうな、なんか。
ふと、
見覚えのない、表紙の折れてしまっているノートを見つけた。
日記と書かれている。
もう死んでしまってこの世にいない、
テオくんの部屋でひとり、
思い出と重ねながら読んだ。
3月1日
今日から日記書くことにした!!
三日坊主にならないために頑張るぞ!!
3月2日
今日はなんだか寒い。
冬かな?って思うほど寒い……夏が恋しいなぁ
3月14日
今日はホワイトデーだ!!
お返しはちゃんとしたぞっ!VAZの人とか。
プラス、じんたんにも。
なんかバレンタインの日にくれてさ〜
嬉しかったしうまかった!!!
3月28日
俺は病気になった。
なんか名前はむずくて忘れたんだけど、
病気になったの。
そうだった、
この日からテオくんは病気にかかった。
そして最後のページ。
4月1日
やっぱりじんたんが好きだ。
明日、告白しようと思う。
声にならないくらい弱い声で、
ひとり、部屋で呟いた。
何死んでんだよ。
お別れすらしてないのに。
言わなきゃ、意味無いじゃん……。
あんな綺麗な字、
見たことない。
一度として。
嗚呼、
めちゃくちゃ笑って、
すごく泣いて、
たまに怒って喧嘩して。
贅沢だし我儘だけど、
まだまだ何もかもし足りないんだよ、全然。
日記を叩きつけるように投げつけ、
俺はか細い声で言った。
『すぐ治るみたい』って、
そう言ったじゃん。
そんな優しい嘘なんていらない。
エイプリルフールならもっと楽しい嘘つけよバカ。
お別れ出来ないなら、
嘘なんていらない。
でも、
変なとこで優しくてお人好しで、
明るくて元気でたまにバカで、
そんなテオくんが大好きでした。
今じゃもう届かないけど。
何死んでんだよ。
エイプリルフールじゃなかったでしょ。
" 告白 " ってのをする日は。
エイプリルフール以外に、
嘘は良くない。
泥棒になっちゃうよ。
遅い遅い、俺の我儘。
今更神様に願ったって、
ドラえもんもタイムマシンもない。
アニメとかドラマじゃないから奇跡なんて起きない。
こんな時、
って言って、
最高な笑顔で俺を慰めてくれる、
そんなテオくんが大好きでした。
ごめんね、
今は何も届かないけど、
もうそろそろお別れしなきゃね。
俺以外誰も居ないスカイハウス、
いつもは騒がしいはずなのに、
物音ひとつしない。
そんなスカイハウスに入ってきた桜の花びらを手に取った。
窓まで持って行って、
手を離した。
そう言って、
どこか懐かしい声が聞こえて、
誰かが手を振った気がした。
エイプリルと恋日記/msy
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編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!