テオくんは夜になってやっと帰った。
ほぼ1日中病院にいたってわけ。
よくいられるよね、喋らない俺しかいないのに。
俺?
俺はドアの鍵がまだ開かないからずっと病室にいるよ。
全然開かなくってさ……
相変わらずもう一人の俺は座ってる。
俺は俺に聞いた。
答えてくれるはずない。
喋らないし聞こえてないから。
"聞こえてるぞ"
どこからか声が聞こえた。
脳死状態?
え?
あ、もしかしてこいつか?
こいつ、脳死状態なんだ。
なんだか俺じゃないなぁ。
普段はこんなんなのかな?
確か、心の声も聞こえてんだっけ?
別世界の俺?
え、まって……
あ、確かにそれじゃなきゃ辻褄が合わないか。
だって、
脳死状態の俺と今話してるってことになるから。
生き返れないって…………
テオくんにはもう話せないってこと?
会えないの?
そんなの、やだよ…………
お前の語彙力がないんだろ………
そうだったわ。
よ、よかった………
テオくんに会えるんだ。
よかったよぉ。
もう一人の俺は悲しく笑った。
なんでだ?
テオくんに会えるんだから、いいじゃないか。
…………え?
な、なんでその理屈にたどり着く?
だって、俺がお前の意識に入ったらお前はこっちの俺に入るってことでしょ?
俺がシンデレラなら、あいつはお姉さんってことかな。
そんな………
俺だけ幸せになってんじゃん…
そいつの目は真剣だった。
その真っ直ぐな瞳に負けて、
俺はハッピーエンドを目指した。
俺だけのハッピーエンド。
そ、そんなん、無理じゃん……
無理じゃん。
テオくんには俺が見えてない。
無理だよ。
バッドエンドしか進めないんだよ。
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編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!