ある日テオくんは、
俺の前から姿を消した。
あまりにも突然のことだったから記憶は曖昧。
ただ、
目の前が滲んで何も見えなかったのは覚えてる。
今俺は静かなスカイハウスにひとりでいる。
動画は8:00投稿。
毎回のように溜め録り、
編集、
企画。
企画はひとりでも出来るやつ。
悲しくならないように楽しくてテオくんを思い出させないような。
前よりもリスナーが減ってしまった。
テオくんの影響力ってすごいんだなぁ。
やっと編集が終わった。
気付いたらもう12時だった。
ぐぅ〜
お腹が鳴る。
なんて呟く。
テオくんがいたら『お疲れ』って言ったのかな。
……お昼ご飯でも作るかな。
ちゃちゃっとチャーハンを作った。(ダジャレかよ)
手を合わせてそう言った。
テオくんがいたらもっと元気に言っただろうな。
その日のチャーハンは、
美味しく感じなかった。
分量間違えたのかな?
焼きすぎたの?
俺はチャーハンをゴミ箱に捨てた。
最近、痩せたな。
なんか食欲が出なくて。
これもテオくんだと思うのは俺だけかな?
家にいても暇だし、
街に出よ。
ついでに企画でも考えるか。
ガチャ
スカイハウスのドアを開けると、
春の風がぶわって入ってきた。
今まで気にしてなかった桜の木には花が咲いていた。
下の方で男女が楽しげに話していた。
俺はその桜を見て、
何も感じなかった。
『ああ、咲いてるな』としか感じれない。
夕日を見ても、
星空を見ても、
静かな海を見ても、
何を見ても感じれない。
" 感情 " というものが出てこない。
小さな女の子がお母さんらしき人に元気よく言っていた。
すごく楽しそうに笑って。
その子のお母さんが女の子に優しく笑いかけた。
とても幸せそうだった。
制服を着た女子高生が友達に話しかけている。
その制服は新しく、
シワがひとつもない。
きっと一年生だろう。
もう一人の子も同調していた。
とても中が良さそうだった。
スーツを着た会社員らしき人が、
偉い人にそう言った。
顔が赤い。
明らかにお酒を飲んで酔っている。
お酒のせいで社長さんもご機嫌だった。
他の人たちも笑い、
飲み、
遊んでいた。
そんな中をひとりで歩いた。
いろんな人の笑顔や笑い声を聞きたくないからフードを深く被り、
耳にイヤホンをつけて音楽を聴いた。
だって、
なんで、
どうして、
俺だけこんな思いしなきゃならないんだよ。
俺がこんなに苦しんでるのに、
能天気にお酒を飲み、笑い………
必死にテオくんを思い出さないようにしてるのに。
俺は逃げるようにしてその場から逃げた。
スクランブル交差点まで来た。
キャップを被ってる人、
髪の毛を染めてる人、
ピアスをつけてる人にどうしても反応してしまう。
もしかしたらって……
そんなはずないのに。
ある人物とすれ違った瞬間、
俺は振り返った。
あのキャップ、
あのパーカー、
ピアス、
髪の色、
後ろ姿に歩き方。
すべてがあの人だった。
呼ぼうとするとどうしても、
反対から来る人達に飲み込まれて声は届かない。
手を伸ばそうとしても届かない。
掻き分けて、
掻き分けて、
掻き分けて、
やっと追いついた。
触れようとした瞬間、
目の前が光った。
光が強すぎて何も見えない。
目をつぶり、手で顔をガードした。
目を開けるとぼやけててよく見えない。
だんだん見えてくるとそこは、
真っ白い場所だった。
目の前には謎のテレビがあった。
リモコンやコンセントが無い。
無意味じゃないか。
プツ
テレビがついた。
だけど砂嵐だった。
ザーーー
ザーーー
ひたすら雑音が空間に鳴り響く。
怖くなってその場から逃げようとしたその時、
振り返った。
そのシーンだけ、
やけにスローモーションみたいな世界となった。
テオくんが箱を取り出し、
変なものを出してきた。
俺はすかさずツッコミ、笑っていた。
コンセントもないのに、どうして??
そしたらシーンが変わった。
俺はさっきの女の子のように笑っていた。
今じゃ見れない笑顔で。
どこの女子高生よりも仲良さげに話していた。
そう言いながら桜の木の下でお酒を飲んでいた。
ふたりとも顔が赤くなっていた。
それはお酒のせい。
その時の桜は、
綺麗だなって心から思えた。
急にシーンがまた変わった。
今度はテオくんひとりだった。
テレビの画面に映っているテオくんに喋りかけた。
テオくんはひとりで喋り、
ひとりで笑っている。
理解が出来ない。
食いしん坊とか、
テオくんは俺をなんだと思ってんだよ…w
必死にこらえてた涙が出てきた。
頭に何か優しいものが当たった気がした。
その瞬間、
久しぶりに温もりを感じてもっと涙が出てきた。
画面の中のテオくんが俺に向かって笑顔で言った。
そんな顔して言われたら、
守らないわけないじゃん。
.
後から懐かしい声が聞こえて振り返る。
そこには、
帽子がおいてあった。
俺は帽子を手に取った。
ぶわぁ
気付くとそこは、
海だった。
夕日が輝いてる。
一番星があった。
俺はそれを見て、
綺麗だと感じた。
空にピースをあげて、
泣いた。
ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー
あとみんなにお知らせ!!
さぁやことありさことわいのハニーが無事、
プリ小説復活しましたよおおおおお!!!
やったぞおおおおおお!!!←うるさいね、ごめん
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。