この世には"どくさいスイッチ"というものが存在するらしい。
どくさいスイッチっていうのは、
みんな知ってるドラえもんの道具だ。
のび太はジャイアンやスネ夫にいつも通りいじめられる。
それに怒ったのび太はドラえもんに頼る。
するとドラえもんはどくさいスイッチを差し出す。
のび太はこの世からジャイアンとスネ夫の"存在"を消したのだ。
元から居なかった存在に。
するとのび太は間違えてこの世の人間、
全てを消してしまった。
広い世界にひとりだけ残されたのび太は自由な日を満喫した。
店からゲーム機やおかしとかを取ってきて一日中遊んだ。
でものび太は寂しかった。
ドラえもんもジャイアンもスネ夫にしずかちゃん、両親もいない。
のび太は泣いた。
その後どうなったかは覚えていない。
そんな道具が存在したのだ。
なぜわかるかって?
今持ってるからだよ。俺が。
道で拾ったんだ。
誰が捨てたのかは分からない。
数分前、俺はテオくんと喧嘩した。
ちょっとした意見の違い。
普段はあんま怒んないテオくんがなぜだか怒った。
俺もそう。
俺は拾ったどくさいスイッチを見た。
俺は面白半分で使った。
かちっ
スイッチを押す音だけが部屋に響いた。
………………なんもおこんない。
それに隣の部屋から物音聞こえるし。
やっぱりどくさいスイッチなんか嘘なんだ。
あーあ、動画にも色々出ちゃうし、謝るかな。
そう思って俺はドアを開け、隣の部屋に入った。
そこにいたのは────
みやだった。
そう言えばドアに貼ってあったやつも無かった。
みやはいつ入ったんだろ?
それにテオくんはどこだ??
……………え??
嘘でしょ?
ドッキリかなんかだよね、よかったよかった。
テオくんが消えるわけない。
どくさいスイッチなんてあるわけない。
みやだって演技うまいじゃん?
きっとテオくんはいるよ。
うん、大丈夫……………
その後みやは帰った。
自分の家に。
テオくんはまだ帰って来てない。
自分の家だろうけど………
不安だし、まだ謝ってなかったな。
LINEしよ。
そう思い、俺はポケットからスマホを取り出し、電源を入れた。
LINEを開いてスクロールする。
テオくんの名前が無い。
LINEの友達欄のどこにも。
みやとかたくま、お母さんお父さんとかはあるのに。
テオくんがどこにも見当たらない。
まさか…………
俺はYouTubeで『スカイピース』と調べた。
出てきたのは、
俺とみやだった。
テ、テオくん、は??
俺はスカイピースのチャンネルの動画をスクロールした。
どこにもテオくんの姿はなかった。
俺とみやしかいなかった。
まさか、まさかテオくんは………
本当に消えちゃったのかな?
でもいいじゃないか。
喧嘩したんだし、少しストレスもあったし。
馬を見なくてもいいんだよ?
最高じゃんか。
意見が違ったんだよ?
そうだよ、いいじゃんか、ねぇ?
俺はスカイハウスにて、ひとりでテレビを見ていた。
今度テオくんと一緒に見ようとしたホラー映画。
いきなりおばけが部屋から出てきたので驚いた。
ひとりしかいなかったから声が部屋に響いた。
正直怖いし、泣きそう。
こんな時、テオくんがいたらどうしてたのかな?
そっと抱きしめて頭を撫でてくれるのかな?
俺は映画を見るのをやめてご飯を作って食べた。
テオくんがいたら、もっとおいしかったかな?
テオくんは俺の作ったご飯を『おいしい』って笑ってくれたのかな?
ご飯を食べ終えて俺は風呂に入ることにした。
その時、テオくんがいたら『一緒に入ろ』って言ってくれたのかな?
その後、髪の毛を乾かしてくれたのかな?
風呂から出て、なんとなく寝た。
今、テオくんがいたら一緒に寝てくれたかな?
それとも夜を味わったのかな?
いや、テオくんはもういないんだ。
元から存在してないんだ。
テオくんのことは忘れてしまおうか。
これからはみやとスカイピースをやるんだ。
みやならいいじゃないか。
よくコラボだってした。
歌もうまい。
おもしろい。
完璧じゃないか。
なのに、なのに……………
涙が止まらないのはなぜだろう?
そう言えば最近、喧嘩ばっかしてたな。
謝れないまま消えちゃったんだ。
めっちゃ声を我慢した。
でも無理だった。
今この時、テオくんがいたら後から抱きしめて『大丈夫だよ』って言ってくれたのだろうか。
"大丈夫だよ"
ふと、懐かしい声が聞こえた。
俺の大好きな声。
テオくんの声。
すると、温もりを感じた。
誰かが俺を後から抱きしめている。
振り返るとそこには、
テオくんがいた。
俺はテオくんの胸の中でたくさん泣いた。
それを誰かが見ていた気がした。
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編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。