──起動
目を開けるとそこは、
ある基地みたいな所にいた。
そう、
俺は戦うためだけに生まれてきた、
" 軍事用ロボット " なんだ。
たくさんの人を傷付けて、
勝つ度に褒められてきた。
血しぶきが飛んでも嫌な匂いがしない。
汚れたら洗ってもらえばいい。
ロボットに、
感情なんて必要ない。
だけどある日のこと、
1人で戦う美しい横顔を見た。
伊達メガネをかけてて、髪の毛はチクチクしてる。
必死に戦っている姿を見た瞬間、
俺の中でエラーが生まれた。
すごくうるさい。
耳障りだ。
俺の上官はいつも言った。
俺は男じゃない。
けど、
誰かを好きになったらダメだということを知った。
今でも鳴り続けているエラー音。
うるさすぎるんだ。
だから、
君を殺しちゃおうと思って銃を向けた。
でも、
俺は引き金を引くことは出来なかった。
俺は君に恋をしてしまったのかな?
俺は名前も知らない君に喜んでもらおうと、
花をあげた。
でもここは軍事基地。
花なんてないから、
そこらに生えてるたんぽぽしかなかった。
質素だから出来るだけ多くのたんぽぽを摘んであげた。
そう言って、
君はたんぽぽをひとつ貰っていった。
こんな日もあった。
笑いながらそう言われた。
初めて笑顔を見れたかもしれない。
そういう日もあったな。
また笑いながら言った。
褒めてるのかバカにされてるのかはわからないけど、
嬉しかった。
君の笑顔が見れたから。
そんな日もあった。
なんで君が泣いてるのかわからない日だってあった。
慰めてあげたいのに、
君のヒーローになりたかったのに、
抱きしめて『大丈夫』と言ってあげたかった。
涙を拭いてあげたかった。
そうな日々を重ねていくうちに、
俺はどんどん弱くなっていった。
ある戦いの日の前日の夜、
弱くなっていったのがなぜかわからなくって君に相談したんだ。
そしたら君は俺に向かって言った。
君は言うと寝てしまった。
そして戦いの日。
夜空には星のように容赦なく降る銃弾。
月が綺麗だった。
あ、あれ?君がいない。
さっきまでいたはずなのに……
どこ?どこ行ったの?
見つけた。
君は気付いてない。
君を誰かが狙っている。
守らなきゃ。
気付いた頃には君を抱きしめていた。
パァァン
弾が当たった事なんかなかったのに。
こんな事、初めてした。
俺は、
胸の中にいる君を見てわかったんだ。
そこから、
目の前が真っ暗になった。
誰かが叫んでるのが聞こえる。
その人は必死そうな声だった。
のに、
俺は安心してしまったんだ。
君の名前すら聞けなかったな。
どんな、名前なんだろうな………
──起動
目を開けるとそこは軍事基地だった。
俺は戦うためだけに生まれてきた、
軍事用ロボットだ。
誰かがこっちに走ってくる。
つんつんヘアーにメガネをかけた子。
すごく笑顔だった。
すごく安心した顔。
だけど…………
そいつの顔は一気に暗くなった。
一体誰なんだ。
そいつはなぜか泣いた。
そいつは泣きながら必死に笑った。
すごく無理をした笑顔だった。
俺の中で、
またエラーが発生した。
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編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。