第93話

Don't forget me
522
2018/11/03 11:46
テオくんと付き合い始めてから約半年程が過ぎた。


引越ししたり誕生日会開いたり、
たくさん楽しいイベントがあった。



そして春。
桜が咲き、暖かな気温になる。

外に犬泪夫藍が咲く。
紫色の美しい花だ。
テオくん
ただいま
玄関から大好きな人の声と、
靴を脱ぎ揃える音が聞こえる。
じんたん
おかえり

ソファーから立ち上がって言う。

さっきまで座っていた場所は少し窪み、
そして元に戻っていく。
テオくん
はい、これ
じんたん
…うぉぉ、きれい!何この花!
テオくん
アネモネだよ
テオくんが俺にくれた花は赤い花一華。
花一華を花束にするなんて珍しい。
テオくんらしいや。
じんたん
ありがとう!花瓶に飾っとくね!
テオくん
うんありがとう
テオくんは少し嬉しそうに笑った。

そうだ、みやに話そう。


俺はみやによく惚気話するのが好きだ。
みやは幸せそうに話を聞いてくれる。

それが気持ちよくって気付いたら一日話してることがある。

でもみやはそれでも嫌な顔せずに聞いてくれる最高な友達だ。

じんたん
みや暇かなぁ、今
テオくん
あ、みやね
テオくんが少し言いにくそうに言う。
テオくん
……風邪ひいてて今苦しいんだって
じんたん
え、ならお見舞い行った方が
テオくん
みや、聞いてみたら二人にはうつしたくないんだって
ライブとか撮影にも影響出ちゃうから…
あいつ優しいからさ
じんたん
そっかぁ…

ふたりで暗い雰囲気の中俯く。
テオくんも悲しそうな顔をする。

たかが風邪。

なのにこんな雰囲気になってしまうのはきっと友達だから。
テオくん
みやの風邪吹き飛ばすくらいの面白い動画出そう!
元気で明るいテオくんの復活。
俺はうんと明るく答え、
撮影を開始した。











じんたん
…なんで嘘ついたの!?

俺は泣きながらテオくんに攻める。
じんたん
そんな気遣いとかいらないからっ!!

みやが死んだと連絡が来た。
死んだのは、
テオくんが俺に花一華をくれた日だった。

あの時テオくんは風邪と言った。

何故嘘をついたのか。

何のための嘘なのか。


みやは交通事故だったらしい。
しかもみやの信号無視。

みやはそんなことする人では無いと知ってるが、
あまりにも哀れな死に方だと思ってしまった。
テオくん
…ごめん
じんたん
もういいよ…


ぎくしゃくしてしまい、
俺は部屋に籠る。

赤い花一華がまだ綺麗に咲いている。


俺は怒りと悲しみがごっちゃになって花瓶ごと床に叩きつけた。
床に傷が付いてしまった。








テオくん
じんたん、ごめんなさい
次の日、
テオくんが謝ってきた。

許さないつもりだった。

でもあまりにも真剣な顔でつい許してしまった。
じんたん
いいよ、俺もごめん…

ほんとは謝る気なんて無かったのに。





そこからいつもの生活に戻った。
外から石焼き芋の屋台の音声が聞こえる。

共にソファーに座り、
手を繋ぎ、
笑いあって、
キスをする。



赤い花一華のように染まった顔。



そっか、キスなんて初めてだもんね。

ごめんね、花瓶割っちゃった。

みやの事とか俺が鈍感過ぎたよ。

え?なんでテオくんが謝るの?

俺が悪いのに。







ごめんね、


ごめんね、


ごめんね。



初めてのコト。
こんなに悲しくて涙が出るなんて。

気持ちいいのと哀しいのが混ざる。


テオくんはごめんねを言う度に涙が溢れる。







ごめんねは何時迄も続いた。
普段の生活では無いのに、する度にごめんねは増えていく。
じんたん
どうしてテオくんが謝るの?

聞いてしまった。
どうしてそんなに泣くの?謝るの?
テオくん
うるせぇ…
テオくんは苦しそうに言うと、もっと激しく、獣となった。
涙が溢れる。

痛くて苦くて暗くて苦しい。

でも愛されてるなぁって思う俺は可笑しいだろうか。



俺にちょっとした暴言を吐いてからも、テオくんは謝り続けた。
決して騒がず慌てず、
冷静にゆったりと静かに謝った。




ごめんね、ごめんね、ごめんね、ごめんね、ごめんね…

そんな寂しそうに言わないで。
哀れなほど涙で溢れた顔。
いつも以上に泣いているテオくん。






外には彼岸花が赤く燃え上がるように咲いていた。
鮮やかで華やかなのに、
何処かしら哀しく切なげな感じが漂う。


まるで二人、涙を流したあの夜の日の事のように。





そして冬に入る頃だ。

外に春から咲いていた犬泪夫藍が枯れた。


動画をいつもの様に撮る。
笑って騒いで。
大好きな人の隣で。


でもテオくんは冬になるにつれ、スカイハウスにあまり来なくなった。
撮影の時は来たけど、それ以外は来なくなってしまった。
動画の中では元気いっぱいなのに。











ある日、

テオくんが置き手紙と花を置いて消えた。
もうすぐで冬が終わる頃だ。



『ごめんね』



その手紙は所々水に濡れたようにぼやけていた。
何度も消した後があった。

きっと、何を書くか迷ったんだろう。


大好きな人の突然の疾走に対し、
俺は涙が出なかった。

でも床には確かに水滴が落ちていた。




嗚呼、
泣いたのに気が付いていないんだ。

本当は泣いていたんだ。





雪がまだ残っている白銀の街。
そんな中に季節外れの蒲公英が咲いていた。

その姿は健気で儚く、美しかった。

ただの雑草なのに。






置き手紙の隣にあった花の名は勿忘草。
水色で小さく…まるで……


空色だった。





ずっと前からスカイハウスの壁を張っていた、
鉄線のツルが枯れた。

解放するように。





俺はその日、朝顔のように嘆いた。
水色の朝顔のように。









冬が明け、

俺は黄水仙と青の花一華を買った。



いつかこのふたつの花弁が散って、
大好きな人に届いたらいいな。










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はい、すみません。

試合とテストが被りました。
勉強しました。




まず解説コーナー。

これは見ての通り花言葉です。



花一華(はないちげ-アネモネ)
花言葉は『君を愛す』『嫉妬のための無実の犠牲』。

じんたんに送ったアネモネは、
じんたん目線からすると愛すの方の意味ですが、
テオくんは真逆です。
これはみやをこの時点でテオくんが殺していることを意味します。
じんたんはよく惚気話をしにみやの家に行っていたことを嫉妬していた。
とっさにテオくんは嘘をついた、まるでじんたんを庇うように。



犬泪夫藍(イヌサフラン)
花言葉は『わたしの最良の日々は終わった』。

春に咲き、秋に枯れる。
春の頃は楽しく過ごしていた、でも秋にかけて崩れ始めることを意味します。



鉄線(テッセン)
花言葉は『しばりつける』。

ずっと前から張っていたテッセン、
ということはテオくんは最初からじんたんを縛り付けていたという意味です。



勿忘草(ワスレナグサ)
花言葉は『わたしを忘れないで』『真実の愛』。

テオくんの最後のメッセージ、忘れないで欲しいという願い。
それと本当に愛していたよというものです。



蒲公英(タンポポ)
花言葉は『お別れ』。

これはそのままの意味で、テオくんとのお別れを意味しています。



朝顔(アサガオ)
花言葉は『はかない恋』

1年半程で終わってしまった苦い恋。
それはあまりに儚いものだったことを意味しています。



彼岸花(ヒガンバナ)
花言葉は『悲しい思い出』。

あの日の涙の夜を過ごしたのは、
二人にとっては悲しい思い出となって脳内に残ってしまう。



黄水仙(キズイセン)
花言葉は『もう一度愛して』。

本気で愛していたテオくんへのメッセージ。
これは願望に近いものだ。



青の花一華(青のはないちげ-青のアネモネ)
花言葉は『あなたを信じて待つ』。

これもキズイセン同様、テオくんへの届かぬメッセージ。
いつか戻って来てくれると信じて。



ちなみにタイトルもワスレナグサの花言葉、『わたしを忘れないで』という意味です。
((大人の事情で誰目線か書けなかったかるらー氏。







季節と花言葉を合わせるのに時間がかかりました。

その割にあたくしのお友達こと神様、りおなと被ったというね。
まさかの花言葉被り!というね。


そして意味を知ってからもう一度ど読み返すといいで((((

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